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伊藤孝英
院長
ロイヤルメルボルン工科大学健康科学部カイロプラクティック学科日本校卒業。B.C.Sc(カイロプラクティック学士), B.App.Sc.(応用理学士)。従来の筋骨格系障害としての腰背部痛から生物社会心理的要因としての腰背部痛へとシフトチェンジ。鬱や不安障害にも着目したマルチモデルでヒューマンケアしています。
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腰痛のためのストレッチは一日どれだけやればいいの?カイロプラクターが回答します!

ストレッチが腰痛の改善や予防に効果的というのは皆さんも何となく効果があることだと、ご存知かと思います。

特にバックラインとよばれる人間の背面全体が硬くなってきて出ている腰痛タイプには効果的です。

しかし具体的な時間や種類などはまだ科学的なデータに乏しいところ。そこで私の経験を踏まえて、いまあるエビデンスと照らし合わせて書いていきます。

目次

最初はみんな初心者だから慌てずに

まず、ストレッチは知ってはいるけれど、具体的なやり方をご存知ない方が私の治療院に来られることは少なくありません。

日頃運動をしている方やアスリートでもなければ、ストレッチはやったことさえない、という人もいらっしゃると思います。

ではアスリート達はどれくらいストレッチを行っているのか。

たとえばオリンピックのアイススケート選手は一日に30回はストレッチをするそうです。体の柔軟性を上げ、血流を良くして体を温め、パフォーマンスを維持するのに効果がある、ということを毎日の練習や試合を通して身体が知っているいるからです。

当院の患者さんは、腰痛を改善させるために、一日10分くらいストレッチをしても「あんまり柔らかくならないんですよね」とおっしゃいます。

もちろん何もしないより全然いいのですが、1日10分のストレッチでは柔軟性を付けていくという意味においては思ったように効果はあがりません。

加齢により体が硬くなる

人間は20歳を超えた頃から特別なトレーニングをしていない限り1%ずつ身体が硬くなってくると言われています。

これは年に1%ずつ筋力が落ちてくるので、その分支持組織が硬くなって体重を支えるようにプログラムされているからです。

時間で考えてみましょう。ざっくり計算をすると1日15分ストレッチをすると年間5475分になります。

そこそこの時間を掛けているように思えますが、1年を分にすると525600分でだいたい1/100の時間になります。

つまり時間で考えた場合ですが、1日15分のストレッチは硬くなっていく身体がそれ以上硬くならないようにするためのブレーキにはなっていると考えられます。

一日最低15分以上はストレッチに時間をかけること

上記でご説明したように、加齢によってどんどん筋力が落ちて身体が硬くなっていくのを「現状維持」には一日15分。

もっと身体を柔軟にし、腰痛や肩こりを改善、予防をしようと思ったら、それ以上しなくては柔軟性を今よりも獲得していくという効果は出ないと私は考えています。

特に男性は支持組織が女性にくらべ硬くできているので、思っているように身体が柔らかくなってこないものです。朝7分、夜7分でもいいのです。

たった1日15分ですが、思ったように続かないのも事実…

カレンダーに「ストレッチ記録」を書き込もう

日々ストレッチができたか簡単にカレンダーに書き込む。そのうち腰痛との関係が感覚的にわかってきます。

毎日の忙しさに、ストレッチを忘れてしまいがち。「今日はもう疲れたからいいや」といってやめてしまうと、翌日も、翌々日もするのを忘れ、最後にはストレッチをやろう!という心意気さえ忘れてしまいます。

腰痛や肩こりをお持ちの方は、ストレッチは無料でできる自己メンテナンスです。

カイロプラクティックを受けに当院に来院してくださる患者さんにもご説明していますが、カイロ治療をやって良くなって終わり、ではなく、カイロプラクティックと自宅でのストレッチの併用で、より効果が見込めるのです(慢性腰痛の場合)。

自宅で使っている大きめなカレンダーに、ストレッチを朝か晩だけやった日は赤い〇印、朝晩2回行った日は◎、一度もしなかった日は×を書き込んでいきましょう。赤い目立つマジックで書くことが大切です。

一ヶ月終えて、どれだけやれたか確認してみてください。

これは、「やれなかった自分」を責めるために行うものではなく、ストレッチを習慣化させるためにとても有効な方法です。

また認知行動療法の観点からも記録をつけ、腰痛との関連が見えてくると腰痛をコントロールしやすくなります。

そして自分で腰痛を管理できるようになることが一番大切なことだと考えています。

15分のストレッチを朝、夜と計2回行うとからだに変化が出てくる

朝の15分のストレッチは慢性腰痛の方にはとても有効です。人間の身体は朝起き掛けの時間帯に一番低下すると言われていますのでストレッチをすることで硬くなった筋エネルギーを放出させ体温を高めます。

また可動域を増やすことで筋膜性の痛みも軽減しますから朝のストレッチはお勧めです。

でもこれだけでは充分と言えませんから、事あるごとになんかしら身体を伸ばす習慣づけをしていきましょう。

大リーガーのイチロー選手はとても柔軟性がある身体ですが、観察しているとインタビューの間でもいつもどこかしら伸ばしています。そのような習慣づけが大切なのだと感じます。(もっともイチローさんの場合は動かしていないと気がすまないのでしょうけど…)

ストレッチが腰痛予防に効果的、というのは皆さんもうご存知のことかと思います。特に腰が硬くなって出てくる腰痛のタイプには効果的です。

腰痛に対するストレッチのエビデンス

一般的な腰痛は「非特異的腰痛」というように医学的にも完全に解明されていないものです。

ですからこれをすれば絶対大丈夫という対処法は存在しません。仮に筋骨格系の硬化を原因としても様々な理由で硬くなっているので、一概に言えないのが現状です。

そんな中でも高品質研究が少しずつ発表されてきています。

スランプストレッチ(スランプテスト)

たとえばスランプストレッチというストレッチがあります。

スランプストレッチ
いうなれば前屈、片足を伸ばす。椅子の上で行います。
この研究で言われているところのスランプストレッチが、この形かどうか詳細は解りませんが、スランプテストの方法はこの形です。
前から見たところ
左足はひざの力で、宙に浮かせて行います。カメラアングルの都合で脚を台に乗せています。

メタ分析が行われて中程度か低いレベルながらも痛みと機能的な改善が認められています。

エビデンス三角
体系的レビューです。信頼度は高いです。

スランプストレッチが腰痛患者の痛みにプラスの影響を与える可能性があるという証拠です。ただし、障害に対するスランプストレッチの利点の証拠の質は非常に低かった。(腰痛のため損失していた日常生活動作は改善されない)

非根性腰痛(足の痺れなどがない、いわゆる腰痛)の患者は、他のタイプの腰痛と比較して、スランプストレッチから最も恩恵を受ける可能性があるようです。

(Pourahmadi M, Hesarikia H, Keshtkar A, et al. Effectiveness of Slump Stretching on Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-analysis. Pain Med. 2019)

これが2019年の研究です。ストレッチ単体で研究しようとするとこうなります。

それよりも体系化されたヨガなどを定期的に受けた方が現実的に、腰痛改善になるのではないかと思います。

コントラクトリラックスストレッチ・ホールドアンドリラックス

基本的には2人で行うストレッチですが、ホールドリラックスとコントラクトリラックスストレッチ(HRとCR)があります。

カイロプラクティックや理学療法士の先生が院内で「ハイ!力入れてー、ヌイてー」というタイプのストレッチです。

最近ではストレッチ専門店も増えてインスラクターさんの手助けを受けて一緒にストレッチをする空間も増えてきています。

これを健常者のハムストリングス(腿裏)に対して行った研究の、システマティックレビューによると、直後の柔軟性は両方のストレッチで効果があったということです。(Christopher S.CaycoaAlma V.LabrobEdward James R.Gorgona)

腰痛にはストレッチ教室とヨガどちらが効果的か?

聞いた話ですがストレッチという考え方自体が、その昔インド人のヨガをアメリカ人が観て、作った概念のようなので、ヨガと言えばヨガなのですが、研究というのは分けて考えないといけないということで比較したようです。

2011年の228人を対象にした研究によると、痛みの軽減、日常生活動作においてはストレッチもヨガも同等の効果があるようです。これは6.12.26週後すべてにおいて同等の効果があったようです。

これは腰痛へのセルフケア本を渡して各自ストレッチしておいてくださいVSヨガ参加者との比較のようです。

ただしこの研究でのストレッチグループは主要な筋肉グループを伸ばすように設計されているが、体幹と脚を強調する15のエクササイズ(合計52分のストレッチ)と、4つの強化エクササイズで構成されているようなので、みなさんが連想される静的ストレッチ単体ではないようです。

ヨガのクラスは、セルフケアの本よりも効果的でしたが、慢性的な腰痛による機能の改善と症状の軽減において、ストレッチのクラスよりも効果的ではなく、少なくとも数か月続く効果がありました。

Sherman KJ, Cherkin DC, Wellman RD, Cook AJ, Hawkes RJ, Delaney K, Deyo RA. A randomized trial comparing yoga, stretching, and a self-care book for chronic low back pain. Arch Intern Med. 2011 Dec 12;171(22):2019-26. doi: 10.1001/archinternmed.2011.524. Epub 2011 Oct 24. PMID: 22025101; PMCID: PMC3279296.

機械論的に 治る、治らない という書き方になるのが悲しいところですが、ヨガもストレッチもどちらも効果的のようです。

ヨガは続けると慢性腰痛に効果的だが1年続けて腰痛具合が半分は減らない

女性

これもアルアルの一つですが、ヨガに通ってるんだけど腰痛が完璧になくならないって聞きます

アメリカ、インド、イギリスで行われた慢性腰痛へのヨガトリートメントの論文のレビューです。

2017年に発表されています。

ヨガが3〜4か月で背部関連機能に小規模から中程度の改善をもたらしたという確実性の低い証拠がありました。

6か月での小から中程度の改善について中程度の確実性の証拠。12か月でさらに痛みは減るようです。

(Whitehead A, Gould Fogerite S. Yoga Treatment for Chronic Non-Specific Low Back Pain (2017).Explore (NY). 2017)
女性医師

慢性腰痛を含めた慢性痛のゴールは腰痛を自己コントロールできるようになること。
完璧に治そうと考えること自体が間違っているので、「なんで?」と思う方はご注意を。

これについて私伊藤の私見ですが、1年ですとまだまだ力を抜いたりやっと意識できるくらいになる段階ではないかと思います。ゴルフでもなんでも上達するには時間を要するので、さらに続ければより改善が見込めるものと、わたしは思います。

また身体の背部の筋肉を輪ゴムにたとえると、腰痛を発している筋肉にコブツがあると例えます。

輪ゴムはひっぱれば伸びるのですが、コブツの部分は固まっていて伸びません。柔軟性が確保できてきても腰痛がスパッと減ってこないのは、筋肉の固まりが腰にあることが多いと、私は思います。

コブツのある輪ゴム
輪ゴムに例えるとわかりやすい。全体的な柔軟性は出てもコブツの有る部分は伸びない

まとめ

年齢に関係なく時間をかけて毎日行っていけば少しずつ柔らかくなっていきます。腰痛があって腰自体が伸ばしづらい時でも脚やアキレス腱を伸ばしたりすることで少しずつ腰も伸ばせるようになってきます。

ですからストレッチで腰痛の改善が確認できるくらい身体を柔らかくしたいのなら1日15分以上はストレッチに時間を掛ける必要があります。

ちなみに私は毎日30分ほどジムで「動的ストレッチ」を行っています。少しずつ柔軟性がついてきていますよ。

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