医療機関で脊柱管狭窄症の診断が出る方も少なくありません。この狭窄症は状態を表す言葉で、基本的には保存療法(非手術)から開始する合意ができています。
原因がはっきり解らないので、ガイドラインは出来ていませんが方向性は見えてきています。
なるべく新しい論文を紹介して、どういう状態で何をしていったら良いのかを考えていきましょう。
目次
標準的脊柱管狭窄症治療は非手術 2019年論文
脊柱管狭窄症にやれることは全部やったのか?
腰部脊柱管狭窄症(Lumbar spinal canal stenosis=LSS)と診断される患者さんは着実に増えており、同時に医療への期待も高まっている。
にもかかわらず、適切な治療に関する証拠は不足。治療の選択肢は、主に開業医の経験に依っている。
先ず、磁気共鳴画像法 (MRI) で説明できる所見は、多くの場合患者の症状と相関していない 。
基本的に、治療は保存的治療から開始する必要があり、できれば集学的アプローチ (マルチモデル )で治療を開始する必要がある。
広範な重度の痛み、足を引きずるような歩行(神経因性跛行症状)、保存的治療がうまくいかない場合は外科的に治療する必要がある。
馬尾症候群(排便障害、勃起障害、お尻の麻痺)などの絶対に手術が必要なケースは稀 。すべての外科的処置の目標は、運動分節 (解説ページへ)の安定性を損なうことなく、脊柱管を減圧すること。
不安定さが原因で、追加の固定術が必要になることもある。
Benditz A, Grifka J. Lumbale Spinalkanalstenose : Von der Diagnose bis zur richtigen Therapie [Lumbar spinal stenosis : From the diagnosis to the correct treatment]. Orthopade. 2019 Feb;48(2):179-192. German. doi: 10.1007/s00132-018-03685-3. PMID: 30673805.
MRIで判断できないのは、狭窄症が見つかっても無症状の人がいます。逆に狭窄がなくても、同様の症状がある人がいるから。
脊柱管狭窄症には基準がない
脊椎の状態: 腰部脊柱管狭窄症 2017
腰部脊柱管狭窄症は、高齢者の慢性的な腰痛や下肢痛の原因として語られる。
症状のある腰部脊柱管狭窄症 は、典型的には、臀部、大腿部、下腿部に放散する痛み、脱力感、しびれ、疲労感からなる神経因性跛行(神経が原因で脚を引きずるように歩く)として表現される。
この診断は、臨床的にもX線的にも信頼できる基準がないため、複雑 である。
北米脊椎学会のガイドラインでは、脊柱管の狭窄や神経根のインピンジメントを確認するために、造影剤を使用しない磁気共鳴画像検査を推奨。
手術以外では、運動療法 と薬物療法がある。一時的な症状の緩和には硬膜外注射も選択肢。
症状が軽度から中等度の患者では、保存的管理よりも外科的介入の方が効果的であることを示す研究はない 。
症状の進行、明らかな神経学的障害の出現、馬尾症候群があれば外科的評価を行う。脊椎すべり症やその他の脊椎不安定性がない場合は、通常、固定術を伴わない減圧術を推奨。
術後の積極的リハビリテーションは、有害事象を伴わずに術後12ヶ月以内に機能的状態を改善するためには、通常のケアよりも効果的であると思われる。
軽度から中等度のLSS症状を持つ患者の約1/3から1/2は、予後は良好であると考えられる 。
Trigg SD, Devilbiss Z. Spine Conditions: Lumbar Spinal Stenosis. FP Essent. 2017 Oct;461:21-25. PMID: 29019641.
診断基準がない診断名というのが事実です。 軽度から中等度の1/3~1/2は回復していきます。
まだ解かっていないことも多く、過度な期待は禁物ですが、重症例以外は安易に手術はしないほうが良いことが統計で確実に言えます。
高齢者の脊柱管狭窄症
高齢者における腰部脊柱管狭窄症 2018年の研究 腰部脊柱管狭窄症は、成人の腰痛の原因として頻繁ある疾患で、狭窄部が脊髄や神経根に衝突することで起こされるとされる。
腰部脊柱管狭窄症は、椎間板ヘルニア、脊椎すべり症、腫瘍、骨折、老化など幾つかの疾患が原因となっており、背中の痛みが頻繁に起こる。
MRIは放射線学的手法として選択されますが症状とあまり相関しないことがあります 。
外科手術の増加が指摘されています。しかし、手術は非手術の選択肢に比べて有意な利益をもたらしません 。 患者と学際的な医療チームとの間で、リスクとベネフィットを適切に議論することが望まれる。
Lafian AM, Torralba KD. Lumbar Spinal Stenosis in Older Adults. Rheum Dis Clin North Am. 2018 Aug;44(3):501-512. doi: 10.1016/j.rdc.2018.03.008. Epub 2018 Jun 12. PMID: 30001789.
ここでもMRI検査は症状と症状は相関しないことがある、手術は非手術にくらべて有益でないと明記。
積極的にリハビリテーションをして、何かしら社会に貢献できる生活を取り戻す方向です。
脊柱管狭窄症への手術の研究
とはいえ、重症の方、馬尾障害が出た方には手術が必要であることも解っています。それではどのような術式が有効そうなのかを見ていきましょう。
ポイントは減圧術単体で大丈夫かも。
脊柱管狭窄症は減圧術だけで大丈夫
脊椎固定術&減圧術 VS 減圧術
2年後のODI (PDF)の平均スコア固定術群27点、減圧単独群24点や、6分間歩行試験の結果(固定術群397m、減圧単独群405m)に両群間で有意な差はない。
脊椎すべり症のある脊柱管狭窄症患者と脊椎すべり症のない脊柱管狭窄症患者の間でも同様。
術後5年間の追跡調査が行われ、5年後の分析では臨床結果に両群間で有意差はない。
入院期間の平均は、固定術群で7.4日、減圧術単独群で4.1日。
手術時間は固定術群のほうが減圧単独群よりも長く、出血量も多く、手術費用も高かった 。
平均6.5年のフォローアップ期間中に、追加の腰椎手術が行われたのは、固定術群では22%、減圧単独群では21%。
結論:変形性脊椎症の有無にかかわらず、腰部脊柱管狭窄症の患者において、減圧術と固定術を併用しても、2年後および5年後の臨床転帰は減圧術単独に比べて良好ではなかった 。
N Engl J Med 2016; 374:1413-1423 DOI: 10.1056/NEJMoa1513721 https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1513721
追加で2割の方が再手術を要することは頭に入れておきましょう。
2020年のシステマティックレビューでも減圧術だけで大丈夫
腰部脊柱管狭窄症の治療における融合による減圧と減圧:系統的レビューとメタ分析 目的 本研究の目的は、腰部脊柱管狭窄症の治療において、固定術を伴う減圧術と減圧術単体の有効性を判断するために、関連する研究をレビューすることである。
2つのグループ間に有意差はありませんでした。
結論:腰部脊柱管狭窄症の治療において、固定術を伴う減圧術は減圧術と比較して臨床的に有意な利点はない。
Chen B, Lv Y, Wang ZC, Guo XC, Chao CZ. Decompression with fusion versus decompression in the treatment of lumbar spinal stenosis: A systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2020 Sep 18;99(38):e21973. doi: 10.1097/MD.0000000000021973. PMID: 32957316; PMCID: PMC7505294.
脊柱管狭窄症への減圧術と理学療法の比較
では理学療法と「減圧術」を比較した場合どうなるか?
機能的な面では2年後に差がないことが判明している。
つまり理学療法だけ も 減圧術 も 減圧術+固定術 も2年後には差はないということです。
日経メディカル
脊柱管狭窄症への減圧術と理学療法、2年後の身体機能に差なし
症候性の腰部脊柱管狭窄症(LSS)患者をランダムに外科的減圧術群と6週間の理学療法群に割り付け、2年後の身体機能を比較した臨床試験で、両群に有意差がないことが明らか…
ただしここでの比較は機能面です。痛みや痺れといった症状面では比較されていないので注意が必要です。
医療費の面からも考えてみる
そもそもこのような研究が出てきているのは、高額な医療費に対する結果が思わしくないものであったからです。
だったら高額な手術は避けた方が望ましいのではないでしょうか?
他の腰痛疾患もそうですが、部品修理という観点ではなく、生身の肉体の機能改善をしていくという方向性が大切です。
ご覧のように中程度までの脊柱管狭窄症は基本的に保存療法になります。カイロプラクティックもその一つです。
そしてマルチモデルのケアを最初から取り入れているかどうかも重要です。ある一つの治療法に固執することなく、柔軟にいろいろと取り入れて活動範囲を広げることが大事です。
これらを踏まえて、前向きに取り組んでいくことが、腰部脊柱管狭窄症の改善に必要です。