手や腕の痺れが出たときに、世界の医学会のコンセンサスではカイロプラクティックのような保存療法を第一選択すべきとされています。
何よりも大切なのは「今は痺れで心配ですが、必ず回復に向かいますから心配なさらないでください 。」という事です。神経根症状への保存療法の研究結果と今後の研究に必要とされる課題をみていきましょう。
いつまで痺れが続くのか、病院へ行ってもビタミン剤を飲んで様子を見るだけなので、心配や不安がおおきくなっていくんだよな… 心配ないというのなら、具体的な回復にかかる時間が知りたいよ トホホ
目次
手の痺れは保存療法が第一選択
腕の痺れは殆どが非手術で良くなる
首から腕、手への症状にカイロのような保存療法が第一選択 2003年 脊髄造影やMRIなどの診断研究は適切なタイミングで行われるべきだが、ほとんどの首の痛みは、自己限定的で適切な保存療法で解決する。
カイロプラクティック、理学療法のような非外科的治療は、頚頚腕症候群(頚椎付近が原因で出る腕の痺れ症状)のほぼすべてのケースで最も適切な最初のステップです。
Boyce RH, Wang JC. Evaluation of neck pain, radiculopathy, and myelopathy: imaging, conservative treatment, and surgical indications. Instr Course Lect. 2003;52:489-95. PMID: 12690875.
「ビタミン剤を服用して様子をみる」というスタイルも「保存療法」といえば保存療法です。 他に出来ることは無いのか?という観点で考えてみると、上記のようにカイロプラクティックや針治療、中国式マッサージ(推拿)といった手技療法という選択があります。それぞれのエビデンスは少しずつ出てきているので、順をおってみていきましょう。
「しばらく様子をみて、変化がなければ手術を検討しましょう」はホント?
黄色いところが脊髄の通り道(写真は胸椎部)
外科的な手術というのは基本的には「命に係わる問題」がある時に行われます。例えば交通事故で出血をしているなどです。
頚椎の手術が必要な場合は、頚椎の中に納まっている神経(頚髄)に問題がある時場合です。
頚椎の構造が頚髄を押しているときなので、首から下に麻痺が起きます。交通事故や頭から落下した時などに起こりえます。
つまり画像診断で、頸椎や頸椎椎間板の変形を画像診断により指摘されたとしても、半身不随などの重篤な症状が無い限りは手術を検討する心配をする必要はない といえます。
頸椎の変性疾患に起因する頚部神経根症状の最も一般的な検査所見は、痛みを伴う首の動きと筋肉の痙攣。特に上腕三頭筋の深部腱反射の低下 です。
スパーリングテスト、肩の外転テスト、および上肢の張力テストを使用して確認。
外傷、持続性の症状、または悪性腫瘍、脊髄症、または膿瘍の危険信号の病歴がない限り、画像診断は必要ありません。
治療の種類に関係なく、ほとんどの症例が解決するので患者を安心させてください。
非手術的治療には、強化、ストレッチ、および潜在的な牽引を含む理学療法、ならびに非ステロイド性抗炎症薬、筋弛緩薬、およびマッサージが含まれます。
硬膜外ステロイド注射は役立つかもしれませんが、深刻な合併症のリスクが高くなる。
非手術の管理で4〜6週間後 にもレッドフラッグまたは持続症状のある患者では、磁気共鳴画像法により、硬膜外ステロイド注射または手術に適した病状を特定も可能。
しかし、上肢の末梢神経障害 がおそらく代替診断である場合もありうる。
Childress MA, Becker BA. Nonoperative Management of Cervical Radiculopathy. Am Fam Physician. 2016 May 1;93(9):746-54. PMID: 27175952.
命に関わるような状態でない限り、画像診断自体が不安を煽り心理的苦痛が発生する為に無意味であることは海外のガイドラインに記載があります。
末梢神経障害は腕を通っている神経が筋肉によって締め付けられて出ている症状です。まずはいろいろな保存療法を1.5カ月続けて様子をみるのが基本です。
頸部神経根症は、神経根の機能障害に起因する比較的一般的な神経障害であり患者の75%〜90%が非手術的ケアで対症療法で解決している。 保存的治療は、固定化、抗炎症薬、理学療法、頸部牽引、硬膜外ステロイド注射など。保守的な治療にもかかわらず症状が持続する患者、または重大な機能障害のある患者には外科的治療は適切です。
Woods BI, Hilibrand AS. Cervical radiculopathy: epidemiology, etiology, diagnosis, and treatment. J Spinal Disord Tech. 2015 Jun;28(5):E251-9. doi: 10.1097/BSD.0000000000000284. PMID: 25985461.
カイロプラクティックで90%は回復する
2012年の腕の痺れへのカイロプラクティックの統計研究 低品質の研究デザインによるレビューだが、カイロプラクティックの背骨の操作(脊椎マニピュレーション)は痺れなどの腕の諸症状(頸椎神経根症状)に対して有効であることが示されている。頸椎神経根症状患者の90%は症状の軽減または無症状になったと報告した。 4-5年間のフォローアップでは再発が31.7%で観察された。
Rodine RJ, Vernon H. Cervical radiculopathy: a systematic review on treatment by spinal manipulation and measurement with the Neck Disability Index. J Can Chiropr Assoc. 2012 Mar;56(1):18-28. PMID: 22457538; PMCID: PMC3280115.
カイロプラクティックを受けていれば、再発率は腰痛よりは少ないなといったところでしょうか。 腰痛ではカイロプラクティックは信頼性の高いエビデンス が確立していますが、腕の痺れへの研究は発展段階です。
高品質なエビデンスが出るのを待ちたいところです。
腕の痺れはストレスが多いと回復に時間が必要 2014年の段階では頚頚腕症(首から腕への症状)への脊椎マニピュレーションはガイドラインで推奨されています。この段階で明確に言えるのは心理社会的な要因があると治療への反応が悪く、痛みが続きやすい。
Basson CA, Stewart A, Mudzi W. The effect of neural mobilisation on cervico-brachial pain: design of a randomised controlled trial. BMC Musculoskelet Disord. 2014 Dec 10;15:419. doi: 10.1186/1471-2474-15-419. PMID: 25492697; PMCID: PMC4295331.
腰痛と同じですね。患者さんの背景に大きなストレスがあると、回復に時間がかかります。 ですから、患者さんの社会的背景によって回復期間が違ってきます。
これをイエローフラッグといいます。
腕のや手の痺れも、社会-心理的な要因も考慮
1992年ノースカロライナでのオペレーター業務への研究腕や首、肩の痛みも心理社会的な要因が背景にある可能性が高い。 これまでの一連の小地域分析によって、電話番号案内サービスのオペレーター間で急増中の上肢痛(首・肩・肘・手首・手)は オーバーワークによるものではなく心理社会的な影響で労働環境に起因していることが判明。
Hadler NM. Arm pain in the workplace. A small area analysis. J Occup Med. 1992 Feb;34(2):113-9. doi: 10.1097/00043764-199202000-00009. PMID: 1597765.
身体の痛みが精神的なものから来ているのかを検査する簡易検査表
これはトラウマ仮説で、腕や首への症状が出る可能性についての論文です。同じような作業を同じ時間していても首肩、腕への症状の方がたくさん出る会社とあまり出ない会社の差について考えられているものです。
問診ではこのような事も確認しています。簡単な検査表BS-POPで状況を確認することもあります。
そしてイエローフラッグと呼ばれる状況である場合は認知行動療法を用いてストレスを軽減していくような措置が必要があります。イエローフラッグがあると痺れが慢性化したり長期化するリスクが高くなるからです。
推拿(中国式マッサージ)の神経根症状への効果
私自身はひょんなことから、カイロプラクティックの大学を卒業した後に、中国式指圧マッサージのお店にお世話になっていました。WHO基準カイロプラクティックの治療院は買い手市場で、私のような平凡な人間には就職口がなく、ご縁があって中国人の方々と働いていました。そのような経緯もあって推拿にも好意的な立場です。
中国式マッサージは、頸部神経根症の症状を緩和するために頻繁に適用される非手術的介入の1つですが、腕の痺れに対するマッサージの有効性を確認( 頚椎神経根症のため)には科学的な文献証拠は不足しています。メタ分析を行ったが、文献の中に2重盲検比較対象試験がないので、質の高い比較研究が必要。
Evid Based Complement AlternatMed。2017; 2017:9519285
この研究では高品質な研究がないということですが、中程度の品質の研究では一定の効果が得られることが解っています。勿論私のような一臨床家の経験からも効果が見込めると言えます。
鍼灸、針治療は現在メタ分析が行われている最中
メタ分析とは過去に出された医学文献を、専門家が数人で調査して批判的に吟味した結果出す最上級の研究を言います。
体系的レビュー、メタ分析は研究する難易度も高く困難なため、信頼度が非常に高い研究です。
2020年12月の段階で確認できるのは、首からの腕の痺れ(頚部神経根症状)への鍼灸、針治療は分析中です。このページの他の文献もそうですが、メタ分析といって科学的に一番信頼性の高い研究の事をさせいています。
中国伝統医学の鍼灸、針治療は2400年以上のあいだ、頚部神経根症への治療としても行われてきたが、科学的根拠という面では、メタ解析、体系的レビューは未だ行われていない。そのため高品質なデザインの研究をするため調査が始まった。
Chen B, Zhang C, Zhang RP, Lin AY, Xiu ZB, Liu J, Zhao HJ. Acupotomy versus acupuncture for cervical spondylotic radiculopathy: protocol of a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2019 Aug 8;9(8):e029052. doi: 10.1136/bmjopen-2019-029052. PMID: 31399459; PMCID: PMC6701683.
保存療法の観点から見えてくる手や腕の痺れの原因
1回の検査、施術だけでは根本原因が解らないこともありますが、探っていくうちに明確になっていくというスタンスです。理由は表層の筋肉が張ってしまっているとき、深層の筋肉の触診が不可能だからです。
画像診断だけでは理解できない痺れの原因 を、相談者ご自身が実感できると思います。
当院では原因1が殆どの原因ではないかと考えています。この部分は推拿やマッサージによる頚部神経根症へのアプローチが効果的であることがエビデンスで出てくれば、他のカイロプラクターも納得してくれるのではないかと、個人的には考えています。
原因1 筋肉や筋膜、関節包、靭帯といったファシア構造
近年注目を浴びている筋膜、正確にはファシアとよばれるタンパク質の構造群のことですが、筋膜自体が痺れや痛みを出しているという考え方です。医学的には未だどこまでをファシアと考えるべきかが、議論されていますが、背骨の骨膜から関節や、関節を包んでいる膜、や周辺の筋肉の膜などが直接痛みを出します。
またある筋肉からの関連痛として遠部に痺れ、痛みがでます。これも手技での確認を丁寧に進めていくと発見できます。実はこの筋肉や関節が原因の痺れ感が非常に多いです。
カイロプラクティックによる手あてが手の痺れ 、腕の痺れ にとても効果的なのは、もっとも得意とする分野が痺れの原因になっていることが多いからです。
原因2 血管性
血管が圧迫されて、血流不足による痺れが起こることもあります。この血管は筋肉の中を走っているものもあり、筋肉が浮腫むと血管や神経が圧迫されて症状が出ます。薄っすらとした痺れ感の時に見られる状態です。
原因3 神経絞扼
神経が筋肉や関節によって潰された状態になります 斜角筋症候群 胸郭出口症候群 手根菅症候群 などからだの様々な個所で絞扼が起こり得ます。理学検査を等を行うと見えてきます。
マイオセラピーから見えてくる手や腕の痺れの原因
腕や手の血管を支配している神経は胸椎(背中)にあります
上部胸椎、中部胸椎が原因
図は腕にいく血管を支配している神経節は肩甲骨の間辺りにあることを示した図です。マイオセラピー理論はこの理論に則って施術をしていきます。
ですから例えば右腕に痺れがある時は→の肩甲骨の内側辺りが治療ポイントになります。
通常頚頚腕症候群として首から鎖骨下辺りまでが念入りに検査されますが、寛解速度は上がらないこともあり、実際には痺れの原因と考えられる血流障害が神経根レベルで起きているため腕や手への痺れが出ていることも多くございます。
2023年時点での研究の限界点と今後の展望
2023年の神経根症状への保存療法のシステマティックレビュー(DeepL翻訳)
目的 本研究の目的は、頸部神経根症(CR)に対する保存的管理を評価するランダム化比較試験(RCT)の参加者の包括基準と除外基準を評価し、文献内で何らかのコンセンサスが存在するかどうかを判断すること。
背景データの要約 2012年のシステマティックレビューでは、CRに対する保存的介入を評価するRCTの参加者の適格基準について、統一性がないことが確認された。それ以来、多数のRCTが発表され、このトピックに関する最新の評価の必要性を示している。
材料と方法 頚部神経根症状のの保存的管理を評価するRCTを特定するため、開始時から2022年6月15日までのMEDLINE、CENTRAL、CINAHL、Embase、およびPsycINFOを電子的に検索。抽出した情報を分析し、研究間の包含基準および除外基準の均質性および/または異質性のレベルを決定。
結果は以下の通りである。 76件のRCTが包含基準を満たし、68件の異なる試験が同定された。 ①69.12%の試験で腕の痛みと他の症状(しびれ、知覚異常、脱力など)の有無が問われ ②50%の試験で参加者に首の症状があることが求められ ③73.53%の試験で何らかの臨床検査所見が求められたが、使用した検査の数と種類には一貫性がなかった。 ④41.18%の試験で画像診断が行われ、33.82%の試験で磁気共鳴画像所見が要求された。 最も多く含まれた除外基準は、レッドフラッグの存在と頚椎症性脊髄症で、それぞれ66.18%と58.82%の試験であった。
結論 全体として、頚椎神経根症状の保存的管理を評価する試験の包含/除外基準にはまだ統一性がないが、2012年のレビューと比較していくつかの改善が認められた。臨床症状や確認検査の診断的有用性を評価する現在の文献に基づき、保存的介入を評価する試験の組み入れ基準を提案した。今後の研究では、研究間の一貫性を高めるために、標準化された分類基準の開発を目指すべきである。
Plener, Joshua DCa,b; da Silva-Oolup, Sophia DC, FCCS(C)a; To, Daphne DC, FCCS(C)c; Csiernik, Ben BScd; Hofkirchner, Corey DCe; Cox, Jocelyn DC, FCCS(C)d; Chow, Ngai DC, FCCS (C), MSce; Hogg-Johnson, Sheilah MMath, PhDf,g,h,i; Ammendolia, Carlo DC, PhDb,j,k. Eligibility Criteria of Participants in Randomized Controlled Trials Assessing Conservative Management of Cervical Radiculopathy: A Systematic Review. Spine 48(10):p E132-E157, May 15, 2023. | DOI: 10.1097/BRS.0000000000004537
このように頚部神経根症状への非手術的アプローチは沢山あります。基本的には冒頭に記したように「非手術で殆どのケースで回復します」のでご安心ください。
2023年時点での神経根症状への保存療法のエビデンスは上記のようなので、さらに精度を上げていくには統一された検査が必要のようです。日本で第一選択でカイロプラクティックや針治療、マッサージ治療などを取る場合、画像診断は取れないと思います。
カイロプラクティックの検査ではサービカルコンプレッションテスト(スパーリングテスト)といって、頭部を垂直方向に押さえるテストが行われます。古典的なテストですが、カイロプラクティックではコンセンサスがとれている整形外科テストです。
鍼灸やマッサージでは枠組みが違うので整形外科的テストは行われないでしょうが、臨床経験上、はっきりと症状を誘発できるケースも少なく、鑑別診断という形では必要ですが、施術としてのマッサージ、鍼治療という意味の方が大きいと思います。