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伊藤孝英
院長
ロイヤルメルボルン工科大学健康科学部カイロプラクティック学科日本校卒業。B.C.Sc(カイロプラクティック学士), B.App.Sc.(応用理学士)。従来の筋骨格系障害としての腰背部痛から生物社会心理的要因としての腰背部痛へとシフトチェンジ。鬱や不安障害にも着目したマルチモデルでヒューマンケアしています。
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認知行動療法– なぜ認知行動療法が効果的なのか –

認知行動療法の説明とカイロプラクティック臨床に取り入れた理由
目次

オセアニア版、腰痛への認知行動療法 を解説

認知行動療法の考え方をベースにした運動療法で動ける身体を創る

ここまでは国立精神・神経研究センターでの精神的な部分にむけての認知行動療法に焦点をあてて解説してきましたが、ここからはオセアニア(オーストラリアやニュージーランドなど)で積極的に腰痛治療のために行われているバージョンをお伝えします。

オセアニアで試行錯誤行われてきた結果、認知行動療法が腰痛に有効であることが証明されたと言っても過言ではありません。

1週間ほどの合宿で行われている

肩こりや慢性腰痛などの慢性的な症状は(6か月以上続く症状)は、実際に患部が痛んでいる以上に脳が痛いと感じていて、不安やよく鬱がでてくることで痛みを抑制する神経の活動が低下していること(簡単にいうと痛みのブレーキが利かない)が多かれ少なかれあります。

腰はじっさいには壊れているわけではないのですが腰痛のときは痛みが強いから「腰がこわれた!」と考えがちになるものです。

下向きの痛みの抑制図
下降性の疼痛抑制の図(見づらくてすみません)

認知行動療法や認知行動療法に基づいた運動療法を行っていくことで「腰が壊れている」という恐怖心や不安をなくし、

脳からの「痛みのブレーキ」を効かせることで腰痛をコントロールできるようになります。

認知行動療法的に腰痛を考えると

認知行動療法は「自動思考」と呼ぶ「自然に沸き上がってくる思考」に着目します。

 腰痛を今までの腰の損傷モデルで捉えた場合、自動思考は「腰が壊れている」、「椎間板が潰れているから腰が痛い」、「動くと腰が痛くなるから動けない」という故障モデルをする患者さんが居おおいと考えることもできます。

この故障モデルはふるい考えかたで国際的な腰痛のあつまりでも改めるように勧告されています。

なぜならば椎間板や骨の変形が腰痛とは無関係であることがわかってきたからです。

これらのまちがった思いこみを認知行動療法によってすこしずつ変えていきます。

社会的な問題も関係している慢性腰痛

脳科学が明らかにしてきたことは、より広い範囲のことで社会的な痛み(人間関係やら収入格差、コミュニケーションの問題など)を司る領域と、慢性の痛みを司る脳の領域がリンクしていることも解ってきています。

この場合、腰痛患者さんが抱えている社会的な問題を解決していく方向で取り組むことで慢性腰痛や悪化した腰痛が改善に向かいます。

このように腰痛での臨床現場で行える認知行動療法には非常に広い幅を持っていますので、個々の患者さんとお話ししながら考えていきます。

また認知行動療法ではスキーマと呼ばれる「かんがえ方の根底的な部分」に着目します。

スキーマがどのように形成され、今ある考え方に影響しているかを見定めます。スキーマは常に同定され、また修正されていきます。

故障モデルで腰痛を考えたとき「画像診断の画像」や「権威あるお医者さんがこう言ってた」などがスキーマとも言えます。

社会的な痛みの影響が強い場合、成育歴(子供の頃の虐待体験など)実にさまざまです。

そういった腰痛に関連する自動思考をご自身の気づきで少しずつ修正していくことで腰痛から解放されていくこともサポートしています。

イギリスで行なわれた701名を対象としたRCT(ランダム化比較試験)では、数回にわたる集団での認知行動療法によって慢性腰痛の疼痛と活動障害が改善され、その効果は12ヶ月も持続しただけでなく、費用も一般的な腰痛治療の約半分に抑えられた。

 認知行動療法を取り言えれることで腰痛治療の費用も減らすことができるのです。

NHK放映「腰痛・治療革命~見えてきた痛みのメカニズム~」

NHKの一シーン
シドニーにある国立の腰痛センターでの一日のスケジュールの様子

オーストラリアのメルボルン州など世界の一部の都市では10年ほど前から州政府や自治体がTVコマーシャルに費用を投じて行ったメディアキャンペーンと同じ内容です。

医療費を出す側がメディアを使って認知行動療法を行っていくという政策です。メディアコマーシャルに掛かる費用をさっぴいても医療費を大きく削減できることが解かっています。

豪州では医療費削減のため国をあげて認知行動療法にとりくんでいるようです。寝たきりだった腰痛のひとが運動できるようになっていくようすをNHKオンデマンドでみることができます。

世界基準の視点で2015年にNHKがまじめにつくってくれた唯一のほうそうと噂です。まだ観ていない方は無料放送のあいだにみておくといいですよ。

腰痛革命
NHKオンデマンドで視聴できます。おすすめです(クリックでサイトへ)

腰痛に対して認知行動療法を行う時は、認知行動療法的に基づく運動療法が行われます。長年重度の腰痛がある方は運動することに恐怖心があり「とても運動なんて」とお感じの方が多いと思います。

勇気を出してできる運動から取り組んでいきましょう。エビデンスはそれを証明しています。

心理社会的因子にも目を向ける
慢性腰痛と慢性疼痛症候群を5年間追跡した結果、重篤な慢性腰痛の予測因子は、MRI所見や椎間板造影所見ではなく心理社会的因子でした。

Carragee EJ, Alamin TF, Miller JL, Carragee JM. Discographic, MRI and psychosocial determinants of low back pain disability and remission: a prospective study in subjects with benign persistent back pain. Spine J. 2005 Jan-Feb;5(1):24-35. doi: 10.1016/j.spinee.2004.05.250. PMID: 15653082.

つまり心理社会的因子に目を向けていかない限り、根本的な解決方向には向かわないということです。

認知行動療法のエビデンス いろいろ

欧米では有効な療法はスグに承認されて臨床現場で使用されます。認知行動療法もその一つです。

従来の治療よりも効果的と超1級の研究が証明

慢性の非特異的腰痛に対する心理社会的介入の有効性に関する体系的レビューによ ると、従来の標準的な治療よりも、積極的なリハビリテーション(認知行動療法に基 づく運動療法)の方が活動制限と疼痛の改善に効果的であることが判明。

Kent P, Kjaer P. The efficacy of targeted interventions for modifiable psychosocial risk factors of persistent nonspecific low back pain – a systematic review. Man Ther. 2012 Oct;17(5):385-401. doi: 10.1016/j.math.2012.02.008. Epub 2012 Mar 14. PMID: 22421188.

認知行動療法に基づく運動療法は非常に有効です。

慢性疼痛に対し認知行動療法をベースにした疼痛自己管理プログラムが有効

慢性疼痛に対してしばしば認知行動療法が行われているが、オーストラリア・シドニー大学のMichael K. Nicholas氏らは、認知行動療法をベースとした疼痛自己管理(pain self-management:PSM)プログラムが高齢の慢性疼痛患者において、少なくとも短期的には有効であることを無作為化試験により明らかにした。

Nicholas MK, Asghari A, Blyth FM, Wood BM, Murray R, McCabe R, Brnabic A, Beeston L, Corbett M, Sherrington C, Overton S. Self-management intervention for chronic pain in older adults: a randomised controlled trial. Pain. 2013 Jun;154(6):824-35. doi: 10.1016/j.pain.2013.02.009. Epub 2013 Feb 26. PMID: 23522927.

オーストラリアでは慢性腰痛に認知行動療法は常識のようですね。実際認知行動療法は効果的で、相談者自身が痛みと向き合いコントロールできるようになる為、無駄な通院を減らすことが可能となります。

国立精神・神経医療研究センターの認知行動療法研修を修了

ビデオを使った認知行動療法研修修了証
ベーシックな認知行動療法研修

ご縁があってお世話になりはじめた国立精神・神経医療研究センターで実施されている認知行動療法研修。最初はオーソドックスな認知行動療法研修を受講させて頂きました。

実習の中で自分も認知行動療法を行ったのですが、私自身の不安、この時は開業間もない頃で治療院経営に大きな不安があった時期でした。研修を通じて自身の行動を客観的に見る事ができ不安をコントロールできるようになったので、私自身も救けられた一人です。

「疼痛の認知行動療法」研修修了

疼痛の為の認知行動療法研修終了証
痛みの認知行動療法研修を受講しています

痛みに関して試行錯誤で行ってきたのですが、この研修のおかげで気負わず疼痛管理の認知行動療法を行えるようになりました。

「不安とうつの統一プロトコル」「統合失調症」研修修了

もともと鬱などに興味があったり私自身の人生を振り返り精神的なことに興味があるので統合失調症やその他の精神的苦しみの方にもむきあっています。認知行動療法がすべてだとは思いませんが有用な方法であることは間違いありません。

修了症、統合失調症
機会は少ないですが、統合失調症の為の認知行動療法研修にも参加しています。

精神疾患の細分化が進み過ぎ、精神科医の臨床でも分類しきれない状況が発生してきているようです。アメリカでも問題のようで、それぞれの精神疾患の背景にある共通する要素をDr.バーロウが検証したところ『不安』と『鬱』でした。そして認知行動療法の世界でもデービッド・バウロウ博士によって「統一プロトコル」という概念が打ち出されました。

認知後療法の統一プロトコルは、多くの精神疾患に共通する「不安と鬱」の2点に着目して認知行動療法を行っていくことで症状が改善していくことが証明されています。

統一プロトコル
統一プロトコル研修

精神医学のDSM5を見ればビックリすると思いますが、診断名が多すぎて何が何だか精神科医の先生でも解らない。

○○依存症やら○○恐怖症云々。

アメリカでも問題のようで、背景にある共通する要素をDr.バーロウが検証したところ『不安』と『鬱』であったようです。そしてその2つにアプローチをしていけば良い結果が得られることが研究で明らかになったのです。

CT-R研修修了

認知行動療法の中でもリカバリーに焦点を当てたCT-R(recovery-oriented cognitive therapy)の研修を修了しています。CT-Rは認知行動療法の創始者アーロンベック先生が亡くなる寸前まで熱心に研究していた手法です。

CT-R研修修了
CT-R研修修了

CT-Rは統合失調症の患者さんで20.30年入院していた方に焦点を当てた内容ですが、筋骨格系症状をはじめ健常者や気分障害がある方にも充分有益な方法です。なぜなら誰でもチャレンジすることを経験していますし、その中で自分らしく生きていくのがリカバリーの本質だからです。

そして自分が人生の主役になってウェルビーイングに生きていく、このような考え方は精神症状の有無に係わらず誰にとっても大切な考え方です。まさに「そのまんまサンシャイン」なのです。

先を見据え、どう生きていくか、そのためには良かったこと、上手くいった事もアジェンダとして確認し、何が良かったのか、何ができたのかに目を向けていくことでエンパワーしていく可能性が認知行動療法業界に出てきています。

ジョンラッシュ先生曰く、「薬を使えば症状はある程度軽くすることができる、しかし生き方を一緒に考えることができるのは認知行動療法だよね。」

「この考え方を精神疾患の方だけでなく、すべての人が使えることができる日がくると素晴らしい」と大野裕先生も仰っています。それを手助けするのがRicovery oriented cognitive therapyです。

ポジティブ心理学の要素や、精神力動的、ヒューマニスティック(人間主義的)、価値観を通じて意義のある人生を構築することに焦点づけ、ストレングスに基礎をおく方法論で、面白い内容になっています。

双極性障害への認知行動療法研修

双極性障害への認知行動療法研修
双極性障害の研修

カイロプラクティックと認知行動療法の共通項

人間が持っている「治癒力」が人を治す

人間はもともと自ずと治る力が備わっています。よく自然治癒力と表現されるのでご存じの方も多いと思います。

もともと備わっている自然治癒力が発揮されない場合、人は病気になり痛みから抜け出せなくなります。

カイロプラクティックでは背骨の不具合が自然治癒力を妨げると考ます。認知行動療法の場合はスティグマと呼ばれる考え方の癖が自然治癒力を妨げていると考えます。

ですからカイロプラクティックでもや精神科医療においても、施術者やカウンセラーがクライアントを治すという考え方はしません。本来は『人を治さない』という立場をとっていることです。言いかえると「人は治せない」という立場です。

気力体力充実している時なら自然と判断できることも、落ち込んでいる時、体力が低下している時は適応的な思考ができなくなってしまっています。認知行動療法は無理の無い範囲で今の状態を模索していきます。

ですから「私が人を治します、というおこがましい考え方ではない」ということがカイロプラクティックと認知行動療法の共通項です。

当院で行われている認知行動療法

軽度の症状の時は施術をしながら普通の会話の中で行われます

心療内科や精神科で行われている対面面接というものだけではなく、背骨を調整しながら会話をしていきます。(メモを取る時に手が止まってしまうのはご了承くださいね)。

また日々の生活で出来そうな運動療法を探っていきます。行動的なホームワークを一緒に決めていきましょうね。

場合によっては認知行動療法のワークブックを用いて、しっかり症状と向き合います

疼痛を抱えて来院される方の中には、パニック状態になる事や気分の落ち込み、両極性障害など精神疾患を併発している場合や、抑うつ状態そのものが痛みや痺れとして表現されていることも少なくありません。そのような状況かであることが明確になれば認知行動療法を取り入れていきます。

初めての来院時にそのようにうち明けて下さる方は少ないかも知れません。通常のカイロ治療を勧めていく上で、改善しない場合や変化が無い場合に「ストレスは本当にないですか?」と問いただすと「実は…」というケースも少なくはありません。認知行動療法を始めるのはそれからでも遅くはないのです。

簡単なお話の中で解決していかなさそうな、動悸、発汗、長年の抑うつ症状などがある場合は系統だった認知行動療法をお勧めています。そのような場合は「不安とうつの統一プロトコル」のワークブックを用いて対応させて頂いています。

メールケアによる日常支援なども行います

気分の落ち込みや他の疾患でも効果が証明されてきている電子メールによるサポートもしています。新たな生活動作を身につけていくのは簡単ではありません。一緒に回復に向けて取り組んでいきましょう。これもすべてエビデンスに基づく対応です。認知行動療法と同じく効果があることが証明されています。

気分の落ち込みにおけるCBT(認知行動療法)ベースのセルフヘルプの科学的証拠。インターネットを介して多くの治療を受けることができます。

Bergström J, Andersson G, Lindefors J. Vetenskapligt stöd för vägledd KBT-baserad självhjälp vid depression. Via Internet kan fler få behandling [Scientific evidence for CBT-based self help in depression. Via Internet can more receive treatment]. Lakartidningen. 2009 Jan 28-Feb 3;106(5):282-6. Swedish. PMID: 19271457.

腰痛に関してインターネットを介して認知行動療法のエビデンスはありませんが、臨床上は有効であると考えてます。

認知行動療法は様々な症状に有効であることが証明されています。認知行動療法というと少し大げさな聞こえ方になるかもしれませんが、簡単に言うと冷静に話あって「どういった状況で腰痛を感じやすいか」を見つけていく事かもしれません。

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