膝や股関節の痛みは、日常生活の質や気分に大きな影響を及ぼします。もっとも厳密なコクランレビューでは、運動が痛みや機能改善に一定の効果を持つことが示される一方で、心理社会的な側面への影響は限定的であることが明らかになっています。つまり、膝や股関節の痛みを総合的に理解するためには、身体的要因だけでなく心理的・社会的要因も考慮する必要があります。

実際に、破局的思考や運動恐怖症の変化は、膝前部痛のある患者における治療後の障害や痛みの変化を予測する因子となることが報告されています。さらに、全体論的アプローチを重視した研究では、身体機能だけでなく心理的・社会的側面を含めた包括的な視点が、膝の健康を理解し改善するうえで重要であることが示されています。

本ページでは、こうした最新の研究エビデンスをもとに、痛みの原因や改善の可能性をわかりやすく解説します。半月板切除術やサプリメント、特別なウォーキングシューズ、歩行補助器具などの研究結果を紹介しながら、運動療法や生活習慣の改善といった保存療法の意義を整理しました。

目次

コクランレビューによる最新エビデンス

膝の痛みは本当に大変です。膝や股関節は背活の質や、精神状態にも多く影響します。

コルランレビュー 股関節、膝、または股関節と膝の変形性関節症の人々に対する運動介入と患者の信念
股関節や膝の変形性関節症に対する運動介入について、コクランレビュー(2018年)は以下のような結果を示しています。
・運動により痛みが約6%軽減(中程度の質の証拠)
・身体機能が約5.6%改善(低品質の証拠)
・うつ症状が約2.4%減少(中程度の質の証拠)
・不安への有意な効果は認められず
・社会的機能は73.6から81.5へ改善(低品質の証拠)

このレビューは、運動が痛みや機能改善に一定の効果を持つことを示しつつ、心理社会的な側面への影響は限定的であることを明らかにしています。膝や股関節の痛みを総合的に理解するためには、身体的要因だけでなく心理的・社会的要因も考慮する必要があるといえます。

Hurley M, Dickson K, Hallett R, Grant R, Hauari H, Walsh N, Stansfield C, Oliver S.
Exercise interventions and patient beliefs for people with hip, knee or hip and knee osteoarthritis: a mixed methods review.
Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 17;4(4):CD010842.

破局と運動恐怖症の変化は、膝前部の痛みのある患者の治療後の障害と痛みの変化を予測します

最新エビデンス一覧

2014年に提唱された全体論的アプローチ

前膝の痛みは、膝の症状の中でも最も相談が多い問題のひとつです。

2014年にSanchis-Alfonsoらが提唱した全体論的アプローチでは、膝だけに注目するのではなく、骨盤や大腿骨近位部、さらには心理的要因(不安・うつ・破局的思考・運動恐怖症)を含めて評価することの重要性が強調されています。

この研究は、前膝痛の病因が多因子であることを示し、診断と治療を個別化し、理学療法・手術・心理教育的介入を組み合わせる必要性を指摘しています。

Sanchis-Alfonso V. Holistic approach to understanding anterior knee pain. Clinical implications.
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014 Oct;22(10):2275-85. doi: 10.1007/s00167-014-3011-8.
そのまんま

カイロプラクティックでは基本的に全体をみるように教育されています。施術者によって見立てはさまざまだと思いますが、少なくとも上記の論文からさまざまな部位や心理的側面もケアしていく必要がある問題であることが分ると思います。

破局的思考と運動恐怖症の改善は、治療後の痛みと障害の改善を予測する

慢性膝蓋大腿前部痛の患者47名を対象とした観察研究では、治療後に破局的思考(catastrophizing)や運動恐怖症(kinesiophobia)、不安、抑うつが有意に減少しました。これらの心理的要因が改善した患者は、痛みや障害の改善も大きいことが示されました。特に、破局的思考の変化は痛みの改善量を予測し、破局と不安の変化は障害の改善量を予測しました。
この結果は、心理的介入(破局思考や運動恐怖症を減らす取り組み)を併用することで、治療効果を高められる可能性を示しています。

Doménech J, Sanchis-Alfonso V, Espejo B. Changes in catastrophizing and kinesiophobia are predictive of changes in disability and pain after treatment in patients with anterior knee pain. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014 Oct;22(10):2295-300. doi: 10.1007/s00167-014-2968-7. Epub 2014 Apr 2. PMID: 24691626.

当院で認知行動療法の併用を推奨しているのは、このようなエビデンスがあるからです。
生物学的な側面からだけのアプローチではなく、心理的側面からのアプローチも重要であることを理解しています。→ [当院トップページはこちら]

「膝」についても手術や画像診断は無意味

医療費が膨れ上がってきている膝の症状

一番医療費がかさんでいる腰痛が最初に研究されてきましたが、どうやら膝関節でも同じような事が分かってきました。

2012年の膝関節の画像診断についての研究

変形性関節症の症状が無い人を対象にMRI検査

X線で変形性関節症(OA)の所見がない50歳超の710人を対象に、磁気共鳴画像法(MRI)による膝の異常を検証した観察研究(フラミンガム変形性関節症研究)が行われました。

結果は腰痛研究と同様に、多くの異常所見が見つかり、「何らか」の異常所見は89%に認められました。特に高齢者層で多く、変形性関節症の特徴を示していない人でも、中高年の大部分は脛骨大腿関節(膝関節)の異常を持つことが示唆されました。

(BMJ 2012;345:e5339.)

画像検査で見られる膝の変形は、必ずしも痛みと直接関係しているわけではありません。腰痛と同じように「形」にとらわれすぎると、かえって不安が強くなることがあります。大切なのは、今ある機能を活かしながら少しずつ動きを高めていくことです。身体は不足しているのではなく、十分に可能性を持っているということを忘れないでください。

膝関節半月板部分切除術 は意味の無い可能性

2013年5月の研究:半月板損傷・変形性膝関節症に対する効果

45歳以上で半月板損傷および軽症〜中等度の変形性膝関節症の画像所見を有する351名を対象に、多施設ランダム化割り付けによる追跡調査が行われました。

その結果、6ヶ月時点で機能的改善に関して有意差は認められませんでした。つまり、半月板部分切除術は効果が乏しい可能性が示唆されています。

N Engl J Med. 2013 May 2;368(18):1675-84. doi:10.1056/NEJMoa1301408. PMID:23635052

これらのことは、生物心理社会的疼痛症候群という考え方からも世界的に注目されており、膝関節についても研究が次々と進められています。患者さんにとって大切なのは、痛みの背景には身体だけでなく心や生活環境も関わっているという理解です。

X線所見のないMRI異常の病的意味は無い

2012年のフレミンガム変形性関節症研究

MRIでは異常を認めるものの、膝レントゲン所見のない中年・高齢者の脛骨大腿骨関節の病変は、変形性関節症を示すわけではありません。これは疼痛の有無とも無関係であることが示されています。地域コホート研究(フレミンガム変形性関節症研究)による結果です。

【対象】710名(女性55%、白人93%)、平均年齢62.3歳、平均BMI 27.9
【膝痛】過去1ヶ月以内に膝痛あり → 206名(29%)
【結果】包括的異常所見頻度は89%
 ① 骨棘形成(osteophyte):最も多い
 ② 軟骨損傷:69%(492/710)
 ③ 骨髄病変:52%(371/710)

高齢になるほどMRI異常所見の頻度は増加。BMI群間で有意差はなく、肥満とは関連が薄いことが示されました。膝痛がない人にもMRIで異常が見られることが確認されています。

出典:Guermazi A, Niu J, Hayashi D, Roemer FW, Englund M, Neogi T, Aliabadi P, McLennan CE, Felson DT.
Prevalence of abnormalities in knees detected by MRI in adults without knee osteoarthritis: population based observational study (Framingham Osteoarthritis Study).
BMJ. 2012 Sep 3;345:e5339. doi:10.1136/bmj.e5339. PMID:22949465

日本ではレントゲンを撮らずにMRI検査を受けることはあまり多くありませんが、この研究結果は参考になる方もいるかもしれません。

変形性膝関節症による慢性疼痛に苦しむ人は、パートナーも睡眠や気分が妨害されている

パートナーにも悪影響がある膝の痛み

今回の研究では、カップルの一方に変形性膝関節症による中等度から重度の疼痛がみられる145組を対象としました。被験者は連続22夜にわたり、痛みのレベル、睡眠の質、起床時の休息感や爽快感を記録しました。

その結果、患者が一日の終わりに強い膝の痛みを報告した場合、パートナーもその夜は十分に眠れず、翌朝の爽快感が低下する傾向がみられました。抑うつ症状や気分の悪さを訴えるパートナーは、睡眠の質が低く、快適な睡眠を得られない割合が高かったのです。特に結びつきの強いカップルでは、患者の疼痛レベルとパートナーの睡眠の質に最も強い関連が認められました。

研究を率いた米ペンシルベニア州立大学のLynn Martire氏は、「睡眠は健康のための重要な行為であり、患者の疼痛によってパートナーの睡眠が妨げられると、身体的・精神的問題が生じるリスクがある」と述べています。さらに、睡眠が妨害されることで、患者の症状や介助の要求に十分に応えられなくなる可能性もあると指摘しました。

出典:Martire LM, Keefe FJ, Schulz R, Stephens MAP, Mogle JA.
The impact of daily arthritis pain on spouse sleep. Pain. 2013 Sep;154(9):1725-31. doi:10.1016/j.pain.2013.05.014. PMID:23731795

膝の痛みはご自身だけの問題にとどまらず、身近なパートナーや家族の生活にも影響を及ぼすことがあります。痛みが強いと睡眠や気分にまで波及し、周囲の方の健康や日常にも負担となることが知られています。つまり、膝痛は「自分だけの問題」ではなく、支え合う人たちにも関わる大切な課題なのです。

半月板切除による機能改善、理学療法と有意差なし(2013年の研究)

半月板断裂と変形性膝関節症を有する患者に対する関節鏡下半月板部分切除術は、理学療法と比べて6カ月後の身体機能を有意に改善しないことが示されました。

米Brigham and Women’s HospitalのJeffrey N. Katz氏らが、NEJM誌電子版に2013年3月19日に報告したものです。

出典:Katz JN, Brophy RH, Chaisson CE, de Chaves L, Cole BJ, Dahm DL, et al. Surgery versus physical therapy for a meniscal tear and osteoarthritis. *N Engl J Med.* 2013 May 2;368(18):1675-84. doi:10.1056/NEJMoa1301408. PMID:23506518

この研究からも、6か月の時点で手術と理学療法に差がないことが示されています。まずは徒手療法や理学療法を選ぶことが、安心できる選択肢となるでしょう。

膝関節半月板部分切除術:半月板損傷・変形性膝関節症:機能アウトカム改善せず

半月板損傷および膝関節症有症状患者への経関節鏡的膝関節半月板部分切除術は、必ずしも非手術的治療より機能的アウトカムに関して優れているとは言えないことが示されています。

紹介記事:http://kaigyoi.blogspot.jp/2013/05/blog-post_2.html
一次出典:Katz JN, et al. Surgery versus physical therapy for a meniscal tear and osteoarthritis. N Engl J Med. 2013;368(18):1675-84.

膝を手術した方が以前のように動けるようにんなったかと言われると、そのようなお姿は見たことがありません。
短期的にみるとカイロプラクティックのような徒手治療は「?」あまり効果ないかも とお感じになるかもしれませんが、まずは半年スパンで考えていくことが大切のようです。

治療法に関する研究

サプリメントの統計研究

変形性膝関節症へのグルコサミン内服、初のRCTでは予防効果得られず

肥満の中年女性を対象にした初の無作為化比較試験(RCT)では、グルコサミン硫酸塩1500mg/日の内服によって変形性膝関節症の発症予防効果は認められませんでした。2.5年間の追跡で、プラセボ群と比較して有意差はなく、安全性も同等でした。

Jos Runhaar et al. Oral Glucosamine Sulphate for the Prevention of Knee Osteoarthritis in Overweight Females; The First Ever Preventive Randomized Controlled Trial. Presented at ACR/ARHP Annual Meeting 2012, Washington DC. ACR Meeting Abstracts

いまだに地上波テレビやBSのショッピングチャンネルでは、サプリメントの宣伝が続けられています。しかし、科学的なエビデンスから見ると効果は証明されておらず、公共の電波を使って意味のないものを勧めている現状には注意が必要です。

ウォーキングシューズも意味なし(2016年7月の研究)

膝変形性関節症への負荷軽減靴に特別な効果なし

内側型変形性膝関節症患者160例を対象に、膝内側部への負荷を軽減するよう設計されたウォーキングシューズの症状改善効果を無作為化比較試験で検証しました。

①負荷軽減靴群と
②対照群(従来のウォーキングシューズ)では、

6カ月時の歩行時疼痛および身体機能の変化度に差はありませんでした。ただし両方の靴で臨床的に意義のある疼痛および機能改善が得られました。

出典:Annals of Internal Medicine, July 2016 http://annals.org/article.aspx?articleid=2533150

この研究は内側型の変形性膝関節症を対象としており、外側型については結論づけられていません。ただし、特別な靴を選ばなくても歩行自体には問題がないことが示されています。なお、痛みの改善効果については明記されていない点にご注意ください。

歩行補助器具の使用は変形性膝関節症に影響を与えない

日本でも膝の痛みから歩行補助器具を使用する人は多いですが、膝の痛みの原因が必ずしも軟骨の減少や関節腔の狭小化に直結するわけではないことが、これまでの研究で指摘されています。今回の米国の研究では、歩行補助器具の使用と膝関節の変形との関連性について検討されました。

米国の研究では、2,639例の高齢者を対象に歩行補助器具の使用開始を追跡し、膝痛のある874例を含めて解析しました。その結果、歩行補助器具の使用と膝の痛みスコア、あるいは膝関節腔狭小化の進行との間に一貫した関連は認められませんでした。

Carbone LD, et al. Arch Phys Med Rehabil. 2012 Oct 4. [Epub ahead of print]

まとめ

これまでの研究から、膝の痛みや変形性膝関節症に関しては「画像所見と痛みは必ずしも一致しない」「社会的影響も大きい」ということが示されています。半月板部分切除術やグルコサミン内服、特別なウォーキングシューズなど、よく宣伝される治療や商品についても、無作為化比較試験では必ずしも有効性が証明されていませんでした。歩行補助器具の使用も、痛みや関節の変形の進行と一貫した関連は認められていません。

つまり、手術やサプリメント、特別な靴に頼るよりも、まずは理学療法や生活習慣の改善といった保存療法を半年単位で継続することが大切です。短期的には効果が薄いと感じることがあっても、長期的にみると安心できる選択肢となります。エビデンスに基づいた冷静な判断を心がけ、焦らず取り組んでいきましょう。

関連記事・参考文献

参考文献:
Hurley M, Dickson K, Hallett R, Grant R, Hauari H, Walsh N, Stansfield C, Oliver S. Exercise interventions and patient beliefs for people with hip, knee or hip and knee osteoarthritis: a mixed methods review. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 17;4(4):CD010842.

Doménech J, Sanchis-Alfonso V, Espejo B.
Changes in catastrophizing and kinesiophobia are predictive of changes in disability and pain after treatment in patients with anterior knee pain. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014 Oct;22(10):2295-300. doi:10.1007/s00167-014-2968-7. PMID:24691626 

Guermazi A, Niu J, Hayashi D, Roemer FW, Englund M, Neogi T, Aliabadi P, McLennan CE, Felson DT. [Prevalence of abnormalities in knees detected by MRI in adults without knee osteoarthritis: population based observational study (Framingham Osteoarthritis Study). *BMJ.* 2012 Sep 3;345:e5339. doi:10.1136/bmj.e5339. PMID:22949465]

4. Sihvonen R, Paavola M, Malmivaara A, Itälä A, Järvinen TL; Finnish Degenerative Meniscal Lesion Study (FIDELITY) Group. [Arthroscopic partial meniscectomy versus sham surgery for a degenerative meniscal tear. *N Engl J Med.* 2013 May 2;368(18):1675-84. doi:10.1056/NEJMoa1301408. PMID:23635052]

5.Guermazi A, Niu J, Hayashi D, Roemer FW, Englund M, Neogi T, Aliabadi P, McLennan CE, Felson DT.
Prevalence of abnormalities in knees detected by MRI in adults without knee osteoarthritis: population based observational study (Framingham Osteoarthritis Study).
BMJ. 2012 Sep 3;345:e5339. doi:10.1136/bmj.e5339. PMID:22949465

6.Martire LM, Keefe FJ, Schulz R, Stephens MAP, Mogle JA.
The impact of daily arthritis pain on spouse sleep.
Pain. 2013 Sep;154(9):1725-31. doi:10.1016/j.pain.2013.05.014. PMID:23731795

7.Katz JN, Brophy RH, Chaisson CE, de Chaves L, Cole BJ, Dahm DL, et al. Surgery versus physical therapy for a meniscal tear and osteoarthritis. *N Engl J Med.* 2013 May 2;368(18):1675-84. doi:10.1056/NEJMoa1301408. PMID:23506518

8.Jos Runhaar et al. Oral Glucosamine Sulphate for the Prevention of Knee Osteoarthritis in Overweight Females; The First Ever Preventive Randomized Controlled Trial. Presented at ACR/ARHP Annual Meeting 2012, Washington DC. ACR Meeting Abstracts

9.Hinman RS, et al.
Efficacy of specially designed shoes on pain and function in knee osteoarthritis: randomized trial.
Ann Intern Med. 2016;165(9):542-549. doi:10.7326/M16-1711.
Annals of Internal Medicine



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