カイロプラクティックが未法制化状態の本邦において、一介のカイロプラクターの発言として限界は承知の上で、腰痛患者の為に最善を尽くしています。
2025年にようやくWFC(世界カイロプラクティック連合)の総会においても、腰痛を生物心理社会的観点からケアしてください、という勧告が出ました。
カイロプラクティックの業界は長らくサブラクセーションの除去が目的という呪縛の中にいました。カイロプラクティック・サブラクセーションという概念は、カイロプラクティックのアイデンティティには重要ですが、EPIC(Evidence-based, People-centered, Interprofessional and Collaborative)という観点からすると、不合理になります。
業界全体がエビデンスベースのカイロプラクティックを提供していくことで、社会の信任が得られるのだと思います。
一人でも多く腰痛患者さんの解放されるキッカケになることを願っています。
腰痛が残ると人生が楽しくなくなる
もう12年前になります。ニューズウィーク日本語版で医療仕分けが行われた場合、医療費をどれくらい削減できるかを試算した時の言葉です。
統計学を勉強したり臨床試験を実施できる医師はほんのひと握りしか存在せず、しかも多くの医師はある治療に
(ニューズウィーク日本版, 2010年4月14日号)
効果がないことが臨床試験で示されても、なぜか自分だけは違うと信じて疑わず、効果が証明されていない治療を続ける

そもそも腰痛の回復までの全体像はどんなものなのか?
日本社会では「続け、温存させる」ことが大切だということもあります。結果何も変えられない状況が戦後続いてきました。ですから、これからお伝えすることは日本社会の風潮としては受け入れがたいことですし、制度を変えるのは無理かもしれません。
他の分野もそうですが、その結果日本社会の衰退に繋がっていると言ってもいいでしょう。医師を含めて腰痛管理に携わる方々の責任は思っているより大きいと思います。
「にくづき」に「かなめ」と書いて『腰』と表します。身体のかなめが痛んでいては、建設的に考え振る舞うことは難しいからです。
知っておくべき腰痛の自然経過
どのような青写真で回復していくかを知っておいても損はないですし、医療機関で説明を受けるべきことです。何度かぎっくり腰になっている方は、経験的に知っています。
非特異的腰痛 (ぎっくり腰)
全腰痛患者に占める割合は80~90%で、6週間以内に90%の患者が自然に回復神経根症状 (手足の痺れがある腰痛)
(Frymoyer JW, N Engl J Med, 1988)
全腰痛患者に占める割合は5~10%で6週間以内に50%の患者が自然に回復
こんなことを腰痛管理に携わる人間が発言するのも変ですが「基本的には自然緩解していくものなので何も心配は要りません。」
従来の腰痛対応では回復率が良くないばかりか再発率も高いようです。でもしっかり数字を見て欲しいのですが、この論文で目安にされているのは、1カ月半です。長いと言えば長い。
ドクター3か月以上つづいている慢性腰痛は、これとは別の経過になりますので、慢性腰痛の方は違うと覚えておいてください。
ストレス=心理社会的要因はぎっくり腰の引き金


ネット上にあふれている骨盤のズレ仮説情報には根拠はありません。それでもマーケティング用語としえて「ズレ」という単語は集客には適しているため、整体や集客に特化したカイロ院では頻繁に使われています。
これは無視してください。
2020年代からはNHKなどでも腰痛とストレスの関連番組が放映されたり、少しずつ注目度は高まっています。そうです、腰痛、特にぎっくり腰が起きるときも多くは精神的ストレスが関与しているのは事実です。
非特異的腰痛という考え方
聞き慣れない言葉ですが、非特異的とは「原因がはっきりしないという意味です」。特異的腰痛というのは癌とか腹部大動脈瘤の影響の腰痛「原因がはっきりしている」腰痛です。
痛みを直接だしているのは筋肉や結合組織であることが殆どなのですが、社会的背景を探ると極めてストレスフルな状況であることが多いです。このように冒頭世界カイロプラクティック連合でも勧告された生物心理社会要因で腰痛を診ていくのが大切です。
筋肉が硬いだけの腰痛があったとしても、その硬さを定量化できない、例えば高齢者のそれと、小学生のそれとでは、一定の硬さであっても、それを一緒にしていいのか?その硬さでも腰痛でない方もいる、という現実があるからです。それで非特異的腰痛という言い方になってしまう。不思議ですよね、医学って。
非特異的腰痛は生物心理社会要因で起こるとされるのは、世界の4大医学誌や世界各国、WHOの腰痛ガイドラインでも明記してあることです。
カイロプラクティックの臨床を認知行動療法を交えて行っていると、原因はある程度は推察できるのですが、ケースバイケースで個々の症例によってストレスがかかっている状況がさまざまです。
ただ
レントゲンは生殖可能年齢なら避けるが賢明
2026年でもクリニックを経由して来院なさる腰痛患者さんは「取り敢えずレントゲン」をいまだに行っています。
一般的な腰痛に対してレントゲン検査やMRIなどの画像検査は極力さけるべき という強い勧告が海外のガイドラインでは出ています。
私のような変わりものでなければ、お医者様に「私は○○だと思うので必要ないです」というのは難しいのも事実。
けれど言わないと健康被害のリスクを高めると判っていれば、頑張って言えるし、それで怒るお医者さまなら、身体を任せるのを止めたほうがいい。
機械にもよりますが、腰部X線撮影は1方向で約2ミリシーベルトの医療被曝を受けます(最新の機械では0.1mSvのものもあるとか)。
放射線は足し算で計算されます。40歳以下の生殖可能な年代の方々なら不必要な医療被曝をすることは避けた方が良い事を提案しています。
「あなたの腰椎や椎間板は、現在の腰痛とは何の因果関係もありません。もし過去に腰痛経験があるのならば、その時の画像診断のことも含めて全く気にする必要はありません
(Van Tulder MW et al Spine 1997) (Chou R et al Lancet 2009)


ぎっくり腰の時は腰痛体操はしないで!!
これもカイロプラクティック臨床でよく聞かれる質問です。「先生こんな体操はしていいですか?いまどんな体操をしたほうがいいですか?」「何か腰痛対策の体操を教えてください」と。
「ぎっくり腰発症後は何もしない方がいいですよ、少なくとも3週間くらいまでは」と伝えます。
実は私自身3回ぎっくり腰を経験しています。
その時はさまざまな事を経験して、試して、なるほどエビデンス通りだなと、痛感しました。3回目のぎっくり腰の時は、数回運動をして、その都度「痛みがぶり返して振出し」みたいな経験もしました。
腰痛に対する運動療法をテーマとした11件のRCTをレビューした結果、急性腰痛(6週未満)に有効な運動療法は存在しないものの、亜急性腰痛(6週~3ヶ月未満)や慢性腰痛(3ヶ月以上)には運動療法が有効であることが判明。
悪いことは言いません、だいたい3週後にはある程度よくなって、殆どのぎっくり腰は4週くらいでほぼ良くなります。
ただ運動習慣がある方は運動できないことに精神的辛さがあります。サボる気がして辛く、罪悪感や筋肉の衰えへの焦燥感が生まれます。私もそうでした。
そんな時は発想を変えて腰回りに負担が少ないトレーニングをしてあげましょう。そんな時にしかできないトレーニングがきっとあるハズです。


骨の変形はシミやシワと同じと考えてよい
腰痛患者100名と健常者100名を対象に腰部X線写真を比較した研究では、両群間の腰仙移行椎、脊椎辷り症、潜在性二分脊椎、変形性脊椎症の検出率に差は認められなかった。画像検査による脊椎の異常所見は本当に腰痛の原因か?
TMSジャパンの長谷川淳史先生なんか「レントゲン写真で認められる異常は、シミやシワ、あるいはホクロや白髪と同じですから心配する必要はありません。」とまで言います。
臨床経験からは、変形や滑りがある部位は周囲の筋肉の配列に変化があるせいか、筋組織に負担がかかっているな、と感じます。
ただこれもエビデンスに従えば、脊椎の異常がある人でも腰痛が無いかたもおられるので、原因とは言い切れないのです。ただ患者さんが腰痛を感じていることは確かなので、手あてはします。マイオセラピー®で筋硬結をポンピングすることもあります。
ただ「何かしらのストレスを患者さんは抱えていらっしゃるだろうな」「不安や抑うつ感があるだろうな」という視点は常に持ちながら施術をしています。
ぎっくり腰の時は日常生活の維持だけで充分
静臥床は論外ですけど急性腰痛(ぎっくり腰)にはストレッチより日常生活のほうが有効です。
痛みの許す範囲内で普段どおりの生活を心がけましょう。
急性腰痛患者186名を対象に①2日間の安静臥床群、②ストレッチ群、③日常生活群に割り付けて比較試験
ストレッチ群は安静臥床群より欠勤日数が少ないものの日常生活群には及ばないことが判明
①の安静にして寝ているののは一番良くないのです。急性腰痛の特効薬は③の日常生活の維持!!
(N Engl J Med. 1995 Feb 9)
これ1995年の論文ですから30年前に判っていたことです。「少し安静にしてください」という言葉によって、慢性化したり無力感になってしまう方が一定数生まれるとなると、冒頭ご説明した「罪の重さ」を感じてしまいます。余計なお世話ですが。



それでもぎっくり腰になったら、1度は専門家に診てもらうことが推奨されています。適切な考えの専門家を探して診てもらいましょう。
ヘルニアの回復は心理的な要因が大きい
信じられないかもしれませんが、これも科学的な根拠があります。
なんらかの心理的なケアなくしてヘルニアのケアはできないということです。
椎間板摘出術を受けた患者46名を2年間にわたって追跡調査した結果、職場復帰には心理的因子(抑うつ状態)と職業上の心理社会的因子(職場での精神的ストレス)が深く関与していた。
画像所見や臨床症状は無関係であることが判明。



いまだと、手術前に心理状態を☑する形をとっている病院もあると聞きます。手術成績は抑うつ状態と職場のストレスに左右されることが明らかになったわけです。
このような観点でカイロプラクティック臨床を行っていると、問診時から予後は何となく予測できます。
痛みのない、痛みの少ない生活を獲得していくのと、より良い生き方を実践していくのは同じ方向を向いています。
それまでの生活習慣や、口癖、人生観も影響しています。「病気を診ずして病人を診よ」とは良く言ったものです。カイロプラクティック臨床を通じて腰痛患者さんの人生のステップアップになればと思っています。
ヘルニア回復を左右するのは心理的要因と言う結果
椎間板摘出術が予定されていた腰下肢痛患者84名の治療成績を、神経学的所見、SLR、画像所見、心理テストの4項目で比較した結果、治療成績と最も関係が深かったのは、理学所見や画像所見ではなく心理テストだったことが判明。
私自身はヘルニアの画像に全く囚われず対応しています(馬尾障害がなければ)。臨床上解るのは、上記のような難しい話ではなく、何となく理解していただき前向きな生活をされている方は明らかに回復が早いです。
お気持ちが前向きでないと、お伝えする運動療法などはとてもする気にはなれないでしょうから直ぐに判ります。
腰痛が老化現象だと思っている人は多いですが、それだけではありません。
来院される方の基礎知識としてこのようなことがあると、腰痛治療は進めていきやすいものです。もちろん筋骨格系への物理的な施術もガチでおこなっています。
オーストラリアの疫学研究によると、腰痛発症率は30代が最も高く、全体の有病率は60~65歳まで増加するがその後徐々に減少する。
危険因子として低学歴・ストレス・不安・抑うつ・仕事への不満、職場の社会的支援が乏しいなど。
【2010年のオーストラリアの研究】
腰痛は老化現象という時代遅れの考え方はもう捨てましょう。世界最先端の研究は生物・心理・社会的疼痛症候群として捉えるべきだと強調しています。
ですから私たち社会全体で認識を変え、ケアのターゲットを変える必要があります。
カイロプラクティックが効果的と断言できる理由
腰痛に対する脊椎マニピュレーションに関する37件のRCT(ランダム化比較試験)を吟味した体系的レビューでは、研究デザインに不備があるために正確な評価は困難で、腰痛に対する有効性は科学的に証明できないが、たしかにある患者には効果が認められる。
第一級のエビデンスである体系的レビューによって、腰痛に対するカイロプラクティックの効果が示唆されたことになります。
私の臨床経験上は比較的痛みが弱い方は速攻で改善、歩けないほどの状態の方は3.4日くらいを目安に5回~10回来院を重ねていくと楽になってきます。その間にストレスの背景のお話を進めていきます。
急性腰痛 慢性腰痛にも有効なカイロケア
腰痛に対する脊椎マニピュレーションに関する論文58件をメタ分析した結果、
3週間以内に腰痛が回復する確率は50~67%だった。
慢性腰痛に対する効果は不明としながらも、急性の非特異的腰痛には一時的な効果があることが判明。
カイロプラクティックは急性腰痛(ぎっくり腰)に対してある程度の効果があるということです。しかし現在では、急性腰痛よりも慢性腰痛に有効であることが証明されています。
カイロプラクティック治療は急性腰痛に極めて効果的です。どのような回復の仕方をして行くかを明確にお伝えできるので腰痛を抱えた患者さんも安心できます。
こんな研究があります。
18~40歳までの急性腰痛患者を対象に4週間追跡したRCT(ランダム化比較試験)によると、モビリゼーション群とマニピュレーション群の改善率は4週間後には差がなくなるものの、マニピュレーション群は最初の1週間で急速に改善することが判明。
モビリゼーション(ゆっくり関節を動かす)に効果がないというのではなく、マニピュレーション(素早く関節を動かす≒ぼきぼき)のほうが「ある程度まで早く回復する」ということです。
これはカイロプラクティック臨床をしていると、良く分かります。改善しない時は問診時に語られなかった大きなストレスを抱えているケースが殆どです。
もっとも初対面の人にいくら守秘義務があるとはいえ、悩みを話すということも難しいものだとも思います。それでもこのような情報が頭に残っていれば思い切って話に来るというスタンスが良いと思います。
思うのは昨今人との繋がりも減り、スナックのような愚痴を言う場所も減り、不満や不安を吐露する場所も減りました。
当院は冗談で「はきだめ」ですから、と説明してます。そういえば一昨年くらいから近所の蛇窪神社に「愚痴ツボ」なる参拝場所が新設されました。吐き捨てていってくださいね、という意味だと思います。
腰痛の慢性化は国力の衰退
長々と書いてきましたが、いろいろな意味で慢性腰痛患者が増える構図というのは、結果的に生産性の低い人間が増えることになります。
慢性化する過程も無駄ですし、慢性化すればより医療費がかかります。
そしてそれが保険治療で賄われるのであれば、社会保障費が更に増えます。この構図が変わるような枠組み、仕組みづくりをしない限りは強い日本を取り戻せないのだと思います。









