お酒を飲むと筋肉が硬くなる をエビデンスベースで考える
諸説ありますが、アルコールで筋肉が硬くなるというお話です。
私も以前は飲酒者だったので体感的なことも踏まえて書いていきますので、参考にしていただければと思います。
2017年の論文 Simon L, Jolley SE, Molina PE. Alcoholic Myopathy: Pathophysiologic Mechanisms and Clinical Implications. Alcohol Res. 2017;38(2):207-217. PMID: 28988574; PMCID: PMC5513686. を参考に書いています。
今分かっているのは疾患として考えた場合、肝硬変の55倍の頻度があって、タイプ2繊維(Ⅱ型筋繊維(白筋繊維、速筋FT)の萎縮が特徴です。
アルコール飲むと動きが散漫になるから、覚えやすいっすね。
アルコール性筋症(アルコール性ミオパシー)を大別する
よくネット検索で出てくるこの言葉が先走りしているようですが、アルコール性筋症自体は病的な状態を表す言葉で他の疾患と同じく、急性アルコール筋症と慢性アルコール筋症とにわけられます。
アルコール性筋症の臨床症状
急性アルコール性筋症
臨床的に、急性アルコール性筋症は、冒された筋肉の衰弱、痛み、圧痛、腫れが特徴です。
原因は筋肉組織の破壊と筋肉内の内容物の血中への放出(すなわち、横紋筋融解症=筋肉が壊れてしまう)だそうです。
頻度としては急性アルコール性筋症は、アルコール中毒者の0.5〜2.0%に存在し、西半球では10万人あたり20例と推定されている(Preedy et al。2003)。=0.0002%
ですから極めて低い確率になります。殆どいないでしょう、疾患として考えた場合は。
慢性アルコール性筋症
慢性アルコール性筋症は、数週間から数か月にわたって近位筋(体幹の筋肉=手足でない)の衰弱が進行します。
まれに、患者は痛み、局所的な筋萎縮、筋肉のけいれん、および/または筋緊張(すなわち、ミオトニー)を経験します
慢性アルコール性ミオパシーは、最も一般的なタイプのミオパシーの1つであり、全体的な罹患率は10万人あたり2,000ケースです。=0.02%。30歳未満の患者では、慢性アルコール性ミオパシーは稀。
この病的な状態になるのは慢性アルコール関連筋症(ミオパシー)は、40歳から60歳の間で最も一般的に起こり、男性と女性の間で均等。
慢性アルコール性筋症(ミオパシー)は、他のアルコール関連臓器機能障害の証拠がある患者で発生率が高く、肝硬変患者の50%とアルコール関連心筋疾患(すなわち、心筋症)の患者の82%で発生します(Urano-MarquezおよびFernández-Solà2004)
このようにこれらの文章を見る限りは、アルコール性筋症という言葉のライン引きとして飲酒者全員の筋肉の問題を指しているわけではないのがわかります。
それでは筋肉が硬くなるかもしれないという原因を、アルコール性筋症の状態から推察していきましょう。
アルコールで筋肉が硬くなるかもしれない、原因の考察
アルコール使用障害(Alcohol use disorder、AUD)=アルコール依存症の人で、先ず目立つ栄養障害は葉酸、チアミン(ビタミンB1)、ビタミンB6、亜鉛、鉄。(Halsted 2004)。
いま一番有力視されているメカニズムは筋肉の合成、分解(同化と異化)のバランスが崩れるというもの。
リボソームタンパク質やmTOR(哺乳類のラパマイシンターゲット)自体のリン酸化を減少させるそうです。
これらのタンパク質のリン酸化が少なくなるとタンパク質の合成が少なくなるそうです。(コロナウイルスの後遺症はリボソームの破壊でたんぱく質合成ができなくなるかららしい)
冒頭の論文の図2の解説部分ですが、アルコール摂取は筋原性遺伝子発現の低下として反映され、衛星細胞(筋肉の元になる細胞)の分化、筋管の融合および筋線維の成熟を防ぎます。(ネズミの筋細胞を使ってた実験では明らかのようです)
慢性的なアルコールの大量消費は骨格筋の炎症につながり、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)などの線維化促進因子の発現を促進し、Smad(P-Smad)などの転写因子の発現および活性化(リン酸化)の増加を刺激します)。これにより、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の遺伝子発現が変化し、骨格筋の細胞外マトリックス(ECM)のコラーゲン沈着が増加します。
簡単な解説:線維化とは筋肉や筋膜組織(ファシア)が硬くなって白くなることです。一旦線維化してしまった筋細胞は元にはもどりません。これが起きるとイワユル筋肉が硬くなるわけですが(伸びなくなる)慢性の大量飲酒では起きていることが予測されます。
これが少量の飲酒、どれくらいの飲酒、人種、アルコール分解速度の個体差などなど考えなければならない要素はいっぱいあるでしょうが… いま解るのはこのくらいです。
運動能力に対するアルコール消費と矛盾する結果も出ている
低用量のアルコールへの暴露は、サイクルマシンまたはトレッドミル試験を受けている健康な参加者のピーク運動能力に影響を与えませんでした(Bond et al。1984 ; Houmard et al。1987)。
同様に、ダイナモメトリーによって測定されたピーク強度の低下は、中程度のアルコール消費で明らかでしたが、低アルコール消費を報告した個人では明らかではありませんでした。とのこと。ほどほど(1日1合まで=缶ビール350一本)なら問題ないのかもですね。
アルコールは神経を鈍らせるだけではない
当然といえば当然なのですが、血中に乗ったアルコールは各細胞に影響を与えています。アルコールへの暴露は、細胞内のさまざまなプロセスに影響を及ぼし、タンパク質合成と分解レベルの変化に寄与しているようです。
この影響は炎症反応、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害、筋肉再生障害、ならびにエピジェネティックおよびマイクロRNA(miRNA)関連のメカニズムが含まれる。薬物ですからなあ。
朗報! 禁酒すれば筋力は回復する
あくまでも病的な状態としてのアルコール性筋症の話に限りますが、急性アルコール性ミオパシーは通常、禁酒の数日または数週間以内に回復しますが、慢性ミオパシーの変化は通常2〜12か月以内に解消されるようです。
ただこの部分は筋力低下についてですので、体が硬くなるという意味では何とも言えません。筋力を上げていく過程で筋肉もやらない人よりは柔らかくなる可能性はあります。
ただし一度線維化していまった筋肉は、筋線維には戻らないと考えられます。
そして、禁酒して運動
やっぱり運動です。
急性または慢性のアルコール性ミオパシーの患者には理学療法が推奨されますが、ミオパシーの解消に対するその効果は厳密には今のところ研究されていません。
身体活動介入、主に有酸素運動および/またはレジスタンストレーニング活動の使用は、アル中患者の運動能力を改善することが示されています(Brown et al。2014 ; Capodaglio et al。2003)。
以前の運動の無作為化比較試験は、アルコール関連ミオパシーの患者に限定されていませんでしたが、アルコール使用障害患者(アル中)が標準化された運動介入を受ければ、対照被験者と比較して最大酸素消費量とベースライン心拍数に有意な改善が見られました(Brown et al.2014 ; カポダグリオ他2003)。
運動介入がアル中およびアルコール関連ミオパシーの患者に特に有益であるかどうかを理解し、特に細胞および分子レベルでのアルコール関連の筋変化に対する運動の影響をさらに解明するには、追加の研究が必要とのこと。
何でアルコールで筋細胞が破壊されるのが解ったか?
禁酒薬の成分から発見に至ったそうな
私が面白いと思ったのは、このことが発見された経緯です。
禁酒薬に含まれる成分「シアナミド」の事前投与により服用していないグループよりも、より筋破壊が進んだそうな。
これはアルコールの分解を妨げる薬。
こう考えるとアルコールに弱い人は、筋破壊も大きく起こる可能性はありますね。
私も弱いながら20年以上飲酒をしてきましたから、体は硬くなっています。その間あまり運動もしなかったのでなおさらです。
主観的にはマイオセラピーでダラダラに筋肉が緩んだ後にお酒を飲んだら、後頭部の筋が硬くなるのを感じた経験があります。
単純に「良くないんだな」って感じました。ご参考までに。