RMIT大学カイロプラクティック学科が2023年に廃止された理由とは? オーストラリアのカイロ教育再編と日本への示唆

私の母校であるロイヤルメルボルン工科大学(RMIT大学)のカイロプラクティック学科が本校でも実質廃止された件について先日知り、AIを使ってことの成り行きを整理してみました。バンデューラキャンパスには解剖実習で訪れており、名残惜しいですが、断片的な記事を繋ぎ合わせて気になっている点を構成し記事にしました。

目次

1. RMIT大学カイロプラクティック学科とは

RMIT University(メルボルン)は、1975年に世界で初めて政府資金によるカイロプラクティック学位を開設した大学です。 長年にわたり、オーストラリアのカイロ教育を牽引し、多くの臨床家を輩出してきました。

しかし、2023年8月、RMITはカイロプラクティック学科の新規募集停止(実質的な廃止)を突然発表しました。

私はRMIT大学カイロプラクティック学科日本校の卒業生です。同窓会にも所属しているのですが、この情報は初耳です。日本カイロプラクターズ協会の会報誌も一応目を通しているつもりですが、私の見落としか知りませんでした。ネガティブな情報は伝えない傾向が昔からありましたので、敢えて伏せているのかもしれません。

2. 2023年に突然廃止が発表された

RMITは2023年8月に、 「今後この学位は提供しない」 と公式に発表し、在学生のみ卒業まで継続する“teach-out”体制に移行しました。

この決定は、

  • 学生
  • 教員
  • 業界団体
  • 州政府 への事前協議なしで行われ、ビクトリア州議会でも問題視されました。

もしかしたらRMIT大学内ではさまざまな憶測が以前からあったのかもしれませんが、公立大学なのに行政への相談なしに決められてのであれば、部外者の私が聞いても少し不自然な気がします。5年プログラムなので2028年に最後の卒業生が出ることになります。

3. 廃止の背景(断片的に判明している要因)

● 研究実績の低迷

外部の研究者から、 「RMITのカイロ部門は研究アウトプットが乏しい」 と批判されていました。

大学にとって研究インパクトは重要で、 戦略的優先度が下がっていた可能性があります。

● 入学基準(ATAR)の低下

Asia-Pacific Chiropractic Journal では、 「RMITはATARを60まで下げていた」 と指摘されています。(ATAR 60 は、日本の偏差値でいうと 偏差値50前後(±2)

ちなみに、Murdoch University(WA)ATAR 70.05(最低)〜78.7(中央値)〜93.3(最高) → 日本の偏差値換算:偏差値55〜65以上

CQUniversity(QLD) → 一般的に ATAR 69〜70 が入学ライン → 日本の偏差値換算:偏差値55前後となっているようです。

一方、RMIT は ATAR を60まで下げており、偏差値換算では「偏差値50前後」。医療系学部としてはかなり低い水準で、大学内での戦略的優先度の低下を示唆する重要な指標です。

この学力レベルの差は、RMITが廃止に向かった背景を理解するうえで非常に重要なポイントになります。RMITカイロ学科の過去最高ATARについては、大学側がデータを公開しておらず、政府データベースにも記録が残っていません。

医療系学部の一般的な入学者分布から推定すると、RMITの過去の最高ATARは75〜80前後だった可能性がありますが徐々に低下していったと考えられます。近年は志願者数の低下と研究実績の低迷により、入学基準が大きく下がっていたことが廃止の背景として指摘されています。学生の学力指標が下がると、大学全体の評価にも影響します。

大学の戦略的判断

公立大学は、

  • 収益性
  • 研究評価
  • 社会的インパクト を重視します。

カイロ学科が大学の重点領域から外れた可能性があります。日常的にRMITの論文を目にする機会は実際に少なかったのも事実です。

● 政府との協議不足(議会資料)

ビクトリア州議会では、 「政府と協議せずに廃止を決めた」 と指摘され、助成金契約違反の可能性まで議論されました。

コロナ窩の頃オーストラリアでカイロプラクターの反ワクチン運動が社会問題になっていましたが、入学者の偏差値低下も原因の一つかもしれませんね。RMIT日本校も入学のハードルは低かったですが、社会人経験者も多く幅広い人材が集まっていて全体的なバランスは良かったです。

日本校の先輩も2名、オーストラリア本校で博士号をとった方がおられます。初期の頃の先生です。その後、研究者が日本校からも出てきていないのが現状です。本校でも研究不足であったようです。日本校卒の研究者:渡辺先生の講演を聞く機会が同窓会であったのですが、研究職は一言で言えば「清貧」だと仰っていたのが心に残っています。臨床家になって沢山の患者さんを診ている先生方は生活は豊かです。

4. 他大学(Murdoch, CQUniversity)との比較

● Murdoch University(西オーストラリア州)

  • Bachelor + Master の5年制
  • エビデンスベース・患者中心ケアを強調
  • 解剖・生理・リハビリを重視

● CQUniversity(クイーンズランド州)

  • Bachelor + Master
  • 栄養・運動・ライフスタイル介入を統合
  • 現代的なヘルスサイエンス寄りの教育

● RMITとの違い

他大学は

  • 科学的基盤
  • 研究
  • 現代的なカリキュラム を強化している一方で、 RMITは研究・学生指標・戦略性で後れを取っていた可能性があります。

RMIT大学日本校では、私9期生の時は、エビデンスベースではなく、やはりサブラクセーション教育ではありました。ただ米国ナショナル大学卒の先生方が多かったので、バイオメカニクスを中心に教育を受けています。その点では理学療法士やフィジカルトレーナーの先生とも共通言語を持っています。どちらかというと卒後に自らが全体を統合していく材料を余すところなく教えていただいた印象です。

ただカイロプラクティック科学学会で症例報告をさせて頂いた時も質問が「サブラクセーションはどう見つけた?」など、古典的な質問が出てことも確かです。今でも役に立っているのは、門田先生に教えておもらった「カイロプラクティック・リハビリテーション」や「全人的医療」、高橋先生の「公衆衛生」は当院がエビデンスベースでのカイロプラクティックを提供する礎になっています。

5. オーストラリア全体の再編トレンド

● 5年制+公的規制のヘルスプロフェッション

オーストラリアのカイロは、 AHPRA(国家資格)+CCEA(教育認定)という 公的規制下の医療職です。

● 教育機関の再編

  • RMITは廃止
  • 新設校(Australian Chiropractic College, Victoria University)が参入
  • 教育の集約化が進行中

● 世界観の変化

サブラクセーション中心 → 筋骨格系ヘルスケア・一次接触医療職 へと再定義が進んでいます。

私自身はTMSジャパンの長谷川淳史先生から、エビデンスベースの考え方を学びサブラクセーションに科学的根拠が乏しいことを知り、サブラクセーションに拘りがありません。オーストラリア脊椎研究財団の提唱する新しいサブラクセーションの定義に興味があります。世界の潮流に乗っているつもりです。しかしRMIT大学日本卒業生で構成されている日本カイロプラクターズ協会の卒後教育の半分は、アプライドキネシオロジー、サブラクセーションや脳神経など疑似科学の要素が大きいものであるのは気になっているところです。

6. 日本への示唆

日本では、カイロプラクティックは国家資格ではなく、 教育も統一されていません。

今回のRMIT廃止は、 「国際基準の教育とは何か」 を考える上で重要な材料になります。

  • 科学的基盤
  • 公的規制
  • 教育の質保証
  • 社会的責任

これらが揃って初めて、 持続可能なヘルスケア職として成立します。例えば科学的な基盤で言えば確実にエビデンスがある首、背部、腰痛などの筋骨格系のケアのプロトコル統一や、慢性期のケアに運動療法を必須にするなど患者中心のケアを浸透させる必要があります。これらは業界でエビデンスを共有して意思疎通を図ることが重要です。

世界的にみればカイロプラクターは確実に社会に浸透しており、一定の需要があり効果があるので医療として認められています。WFCの世界大会の報告を伺ってもエビデンスベースでの対応を求めているようです。

ただ日本の現状をみると旧態依然のゴッドハンドアピールの先生が多いようですし、利用者側も魔法のような施術を求めている傾向にあるように感じます。私がカイロプラクティック科学学会でエビデンスベースでの症例報告を行っても、あまり関心がないように感じますし、セミナーの内容もエビデンスの乏しい内容のように思います。

旧RMIT大学日本校校長の故・竹谷内宏明先生が仰っていたように、先ずは筋骨格系のケアの確立を第一にするべきだと語っておられたのが良く分かります。

ここはマードック大学日本校卒のカイロプラクターの方々や海外大学卒のD・Cの先生方とも連携をとって、協力してエビデンスベースのカイロプラクティックを目指すことが必要だと私は感じています。

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