読者によっては、内容に関して混乱するかもしれませんが大切なことですから最初に書いておきます。
脊柱管狭窄症は「病態を表す言葉」であって、脊柱管が狭くなってるという原因(疾患)を表す言葉ではありません。
簡単にいうと「数分歩くと座りたくなるくらい腰が痛い」とか「足に痺れが出てきて」というような状態の時にたまたまレントゲンやMRIを撮影して脊柱管が狭くなっているのが発見されると「脊柱管狭窄症」という診断が付きます。このページを読み進めていくと理解できます。
腰痛・痺れの原因を表す言葉ではない
何が言いたいかというと、様々な要因で、数分歩くと座りたくなるという状態を表している言葉で、脊柱管が骨化して狭くなっているから歩けなくなっている訳ではないというのが研究者のコンセンサス。
逆に言えば脊柱管が狭くなっている人の中には腰痛や脚の痛みのない人もいるということ。
私のような一代替医療家が行っても説得力がないでしょうから、世界的に納得のできる質の高いエビデンスを沢山見ていきましょう。
腰痛も下肢痛(かしつう=脚の痛み)も経験したことのない健常者67名を対象にMRIで腰部を調べた結果、1/3の人に変形がみられ20%の人がヘルニア、
椎間板変性・変形性脊椎症・椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症のような構造上の変化はごく一般的な所見であることが判明したことから、手術の選択は慎重であるべき。
Magnetic Resonance Imaging of the Lumbar Spine in People without Back Pain” Jensen MC, Brant-Zawadzki MN, et al. New England Journal of Medicine, 1994.
脊柱管が狭くなって症状が出ているのなら、なぜ痛みが出ない人がいあるのかということがポイントです。
脊柱管狭窄症も基本的には手術の対象ではない
医療費が足りない、と2026年では政府が叫んでいます。無駄をカットする部分を検討する必要があります。ヨーロッパのガイドラインから見ていきましょう。
欧州の腰痛診療ガイドライン
「痺れも含めたすべての慢性的な腰痛に対する外科的な手術は適切な保存療法を行っても2年間変化が無かった場合に、いくつかある方法の選択肢の一つとして行うものです」
「しかし現時点では手術をすることが長期的にみて効果的であるという証拠はどこにも無い。どういった手術が失敗に終わったかを考慮にいれて見当する必要がある。」(2004年時点)
「また腰痛への外科的手術の結果がどのようになるのかについては今までより精度の高い研究をする必要がある」
(European COST for chronic non-specific low back pain2004)
手術した直後は楽になるのですが、1年、2年すると保存療法と変わりありません。それらのエビデンスを見ていきましょう。
これらの事実は、日本の今の医療現場では患者に知らされることは少ないように思われます。
腰痛や痺れ、脊柱管狭窄症の方で本当に手術が必要なのは1%以下です。
Rosomoff HL, Rosomoff RS.
Back pain: conservative management. Medical Clinics of North America. 1999;83(1):77–102.
術後1~2年は良いかもしれない減圧術 2009年の研究
「脊柱管狭窄症の減圧手術が術後1~2年は非外科的治療より適度に優れている。
椎間板ヘルニアの椎間板切除が術後2~3ヵ月間は保存用法に比べて機能的になるという証拠はあるが、それ以降保存療法と比べて有益であるという証拠はない。
結論として手術は短期的なメリットはある。
“Conservative Treatment of Acute and Chronic Nonspecific Low Back Pain: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials” (Spine, 22(18):2128–2156, 1997)
この短期的なメリットのために手術をうけるのは患者さんの選択になります。ただし手術前にこのことを知らされていることが大切です。
画像所見の実態、意味
冒頭にも買い来ましたが、画像所見と病態は無関係の脊柱管狭窄症であると言っても良い論文です。有名雑誌スパインの掲載です。
高性能の画像診断の普及によって1990年代から脊柱管狭窄症が増加したが、100名の脊柱管狭窄症患者(平均年齢59歳)の臨床症状と画像所見(単純X線撮影・脊髄造影・CT)を比較した結果、臨床所見と画像診断には関連性は見出せなかった。
“Lumbar spinal stenosis: clinical and radiologic features.” Spine. 1995;20(10):1178–1186.
これは検査機器の向上によって今まで映せなかったものが映るようになったので、これが脚の症状の原因だ!と仮説を立てただけで、蓋を開けてみると違うところに原因があるのではないか??画像診断の意味を問う論文になります。



もう30年も前の論文になるのですね。2026年の傾向は後に説明します。
それでも手術がしたい方がいる!
脊柱管狭窄症に限った話ではないですが、腰痛が原因で手術を行うのは最後は患者さんの選択になるとおもいます。勿論その選択が正しいこともあります。
それも大事ですが、これらの事実があることを知ってからお話し合いの中で決めていくことが医療者の務めであると考えます。しかし世界中宇で狭窄症の手術は増えている…
脊柱管狭窄症の術後は感染症が怖い
65歳以上の手術 栄養不良に気をつけて
腰部脊柱管狭窄に対する選択的除圧術と脊椎固定術を受けた患者114名を分析した結果、65歳以上の42%に栄養不良が認められ、術後感染率が85%と高率だったことから、栄養不良は脊椎手術による術後合併症の危険因子である。
Malnutrition in elderly patients undergoing lumbar spine surgery is associated with increased postoperative complications (Journal of Clinical Neuroscience, 2016)
栄養不良と術後感染は術後合併症だと、知識としていれておいても損はないでしょう。
固定術はリスク
脊柱管狭窄症の減圧術に
①除圧術のみを行った場合
②固定術を追加した場合の2年後と5年後の転帰
を比較する無作為化試験Swedish Spinal Stenosis Study(SSSS)を行い、これらの治療の有効性には差はないこと②固定術を追加すると、出血量が増え、入院期間が長引いて、費用も高額になることを報告
除圧術に固定術を追加しても意味はないということです。
すべり症を伴う脊柱管狭窄症への手術
脊柱管狭窄を伴う変性辷り症患者76名を対象に、器具固定群と骨移植固定群の術後成績を2年間追跡したRCTによると器具固定によって骨癒合率の向上は認められるものの、それが必ずしも臨床症状の改善に結びつかないことが判明。
Fischgrund JS, et al. Journal of Bone and Joint Surgery (JBJS), 1997.
器具固定ですべり症を固定しても患者さんのメリットは少ないようです。
80歳代以上の減圧椎弓切除術 6年後には効果は半減
脊柱管狭窄症と診断された80歳以上の腰下肢痛患者88名を対象に減圧椎弓切除術の成績を6年間追跡した
結果:1年後の改善率は89%だったが6年後には57%に低下し17%は再手術を受けていたことから、これまで報告されていた成績より悪い。
Amundsen T, Weber H, et al. Spine, 2000.
減圧椎弓切除術は6年後には6割の人が再悪化しているということです。年齢とも関係するようですが、手術費用を年換算すると判断材料の一つになるかもしれません。
権威あるspine(スパイン誌)で確固たる結論はだせない
脊柱管狭窄症への減圧椎弓切除術に関する論文74件を厳密に検討した結果、優または良と評価できたのは平均64%だったが、論文によっては26%~100%もの開きがあり、研究デザインにも不備が多いためその有効性は証明できない。
Turner JA, Ersek M, Herron L, Deyo RA. Spine, 1992.
減圧椎弓切除術の有効性は証明されていない、という結論です。今でもたまにこの手術をしたという方のお話しを聞きます。有効性は証明されていないようです。
プラシーボ効果を超えない 減圧椎弓切除術
脊柱管狭窄症に対する減圧椎弓切除術に関する74件の論文をレビュー
Turner JA, Ersek M, Herron L, Deyo RA.
減圧椎弓切除術によって優または良と評価できた割合は平均64%だったことが判明。やはりプラシーボの平均有効率70%を超えていない。
減圧椎弓切除術は偽治療と変わりない結果だということです。
複雑な固定術を必要とする脊柱管狭窄症がわずか6年で15倍に増加したとは考えられない。脊椎分野のオピニオンリーダーの影響や思い込み、経済的利益などの要因が関与している。正確な情報を与えられれば患者は低侵襲性のリスクの小さい手術を選択するだろう。
腰痛疾患の分野では十分な試験が行なわれることなく新しい技術が普及してしまう。アメリカでは脊柱管狭窄症に対する固定術の実施率が15倍に増加したが、それに伴い重篤な合併症、死亡率、再入院による医療費なども増加している。明らかに過剰診療。
脊柱管狭窄症の治療では、特異的な適応がほとんどない症例や、より簡単な治療で高い効果が得られる明確なエビデンスがある症例に対しても、より複雑な新しい手技(固定術)が行なわれている。エビデンスのないリスクを伴う高価な治療の急増は問題だ。
脊柱管狭窄症で複雑な固定術を受けた患者は、除圧術に比べて命に関わる合併症リスクが3倍(5.6%対2.3%)。術後30日以内に再入院する可能性も高く(13%対7.8%)、手術費用も3倍強にのぼる(80,888$対23,724$)。
JAMA. 2008; 303(13):1259–1265.
こんなことでいいのでしょうか?馬鹿馬鹿しいですね。あくまでもアメリカのお話しですが、もしかしたら日本人でも同じことが言えるのかもしれない。
手術を終えたばかりの人は「あ~、すごく楽になった」と表現します。貴方の周りの人が、手術後5.6年していくうちに、どんな状態になっているかを観察してみてください。上記のエビデンスが語っている事が理解できるでしょう。
2026年の最新傾向(結論)
古い記事なので、リライトする際最新の動向をコパイロット君に聞いてみたら、この傾向は基本的には変わっていないようです。
■ ① 減圧術の長期成績はやはり“落ちる”
- Amundsen 2000 の 1年後 89% → 6年後 57% という傾向は、2020年代の研究でもほぼ同じ。
- 5〜10年で効果が減弱するのは一般的。
■ ② 固定術(instrumented fusion)は“画像上の成功”と“症状改善”が一致しない
- 骨癒合率は上がる
- でも 痛み・機能改善は非固定と差がない → 1997年の Fischgrund RCT と同じ傾向が2020年代でも確認されている。
■ ③ 高齢者の手術リスクはむしろ“より強調される”ようになった
- 栄養不良(低アルブミン)
- サルコペニア
- 糖尿病
- 喫煙
- 多剤併用 これらが 術後感染・再手術・死亡率 を強く上げることが、2020〜2025年の研究で明確化。
■ ④ “画像所見と症状は一致しない”という古典的知見は、今も完全に支持されている
- 無症状でも
- 20%にヘルニア
- 1/3に変形 という Jensen 1994 の知見は、2020年代の大規模MRI研究でも再確認されている。
■ ⑤ 世界的ガイドライン(2021〜2025)も“手術は慎重に”が基本
- 北米脊椎学会(NASS)
- 英国 NICE
- 欧州脊椎学会(EuroSpine) いずれも
手術は重度の神経障害 or 保存療法が無効な場合に限定 という立場を維持。
脊柱管狭窄症の保存療法は取り組み方がポイント
それでは手術以外の方法をとった場合、何が求められるか?先ずはウォーキングを初めるなど、ライフスタイルを変えていくことがとても重要です。しかしもともと運動していない方なのでそのような容態になっているのですから、想像以上に大変なことです。
保存療法でどれくらいで回復すると考えるのか?
脊柱管狭窄症の診断がでていても数回の治療で劇的な改善をする方もいらっしゃいますが、基本的に症状はゆっくりと改善していきます。数ヶ月~年単位で考えたほうがよいです。
(Amundsen T,et al.Spine 25 1424-1435 (2000)
10年の追跡調査によれば、保存療法の成績としてのデータとして、3~8年で改善が15%~45%です
数カ月から数年と考えてください
道は長いですが、手術をしてもバラ色の結果でないことが多いことは先ほど確認しています。地道に取り組むのが一番です。
劇的に変化する場合も勿論あります
これらの研究は1980年代後半から行われているものです。ですから保存療法の対象が温熱療法や機械によるけん引が主体の研究結果ですので、もう少し前向きに考えてもらっても良いかとおもわれます。
状態にもよりますが、典型的な脊柱管狭窄症の症状でなければ早期回復もありえます。ヨーロッパガイドラインを始め、効果的な保存療法の数も増えてきているので、現在では上記の数字よりは高い回復率であると考えられます。情報を入手したらアップデートいたします。










