抗菌ブームで完全消毒しないと気が済まなくなっている日本人。私も以前はそうでしたが、海外に旅行をするようになって疑問を持つようになりました。
コロナ窩でいっそう消毒に拍車がかかり、アルコール消毒で手が荒れてしまう方もいらっしゃると思います。コロナウイルスは菌ではなく、ウイルスですが極力手についているウイルスを減らすのはわかりますが、完全に無くすのは無理な話です。
今回の記事は、私たちの身の回りにいる菌、善玉菌、悪玉菌と皮膚にもいっぱいいる菌と関係のある手洗い石鹸についてです。
手を洗っても菌は何処にでもいる
最近微生物にハマっている伊藤です。来院者に教えて頂いた漫画「もやしもん」を読み始めて、ますます興味津々。
事の発端はたまたま書店で目にした「あなたの体は9割が細菌」というタイトルの本を手にした時からでした。
積読状態で読みたい本が積み上がっている状態なので購入しようか迷ったのですが、どうしても気になったので買っちゃいました。
ここのところ流行の腸内フローラに関する最新情報なのですが、未来の医学のヒントになることばかりでした。
人間の顔には1㎠に3000万~1億の菌
ざっくり説明すると
抗生物質の乱用が腸内細菌曹の分布を変えてしまい、それがあらゆる病気になっているという内容です。(ざっくりすぎるか?)
「もやしもん」は2005年に発刊された漫画本のようですが、下記の引用記事にあるようなことが2巻の最後の部分に記述がありました。
「抗菌石鹸とかいろいろ使っても、菌はどこにでもいるのだから、菌を完全に除去することはできない。」
もやしもん情報では人間の顔には1㎠に3000万~1億の菌が居るそうです。手にも沢山います。洗っても居ます。
皮膚表在菌にも善玉菌が居て皮膚層に薄い膜を貼ってくれているそうですよ。
潔癖症の方や、恐怖症の方はいつも手を洗っていないと気が済まないようで、手がカサカサになってもそれでも手を洗いたくなる衝動がでてくるそうです。
ただ洗っても完全に菌を除去できませんし、そもそも皮膚を守っている善玉菌の数も減ってしまい皮膚を守ってくれるバリアが薄くなります。
そうすると手が荒れたり、細菌感染しやすくなります。怪我をした時も治りづらくなります。
そもそも何となくのイメージが違っているではありませんか?多様性の時代です。ある程度菌とも共生するという発想転換が必要だと私は思います。
薬用せっけんというカテゴリーは無くしたほうが良い
アメリカで根拠がないということで、販売中止に追い込まれた「薬用せっけん」
■薬用せっけん、代替を 厚労省、米で販売停止
厚生労働省は30日、殺菌成分のトリクロサンなどを含む薬用せっけんについて、1年以内に代替製品への切り替えを進めるようメーカーなどに求める通知を出した。
米国で同じ成分を含んだ薬用せっけんの販売停止が決まり、国内メーカーでも販売自粛の動きが広がっていた。
厚労省によると、国内で対象となる薬用せっけんは約800品目。実際に流通しているのは一部とみられ、実態を調査する。これまで健康被害は報告されていない。
厚労省はトリクロサンなどを含む薬用のせっけんやボディソープ、洗顔料を医薬部外品に承認している。米食品医薬品局(FDA)は9月2日、トリクロサンなど19成分を含む薬用せっけんは、通常のせっけんよりも殺菌性能が優れているとの科学的根拠はなく、長期間使用した場合の安全性が確認できないとして販売停止を決めた。薬剤に耐性を持つ細菌を生み出す恐れもあると指摘している。
メーカーなどで構成する日本石鹸洗剤工業会や日本化粧品工業連合会は、これらの成分を含まない製品に切り替えるよう各社に要請。厚労省は代替製品が申請されれば、審査を迅速に進めるとしている。
2016年10月3日 (月)配信共同通信社
それにしてもアメリカは面白い国ですね。政治的なこともあるのかもしれませんが、ハッキリ物を言ってきます。その後もしかすると根拠が出されて、どうどうと「薬用せっけん」として許可を得ているのかもしれませんが、2016年の時点では上記の通り。
私個人的には、魚を触った後なんかに薬用せっけんで匂いを取る目的で使用しています。消臭効果から考えるとある程度は殺菌してくれているような気持ちになります。
これだけ抗菌グッズが世に流通し、除菌をという概念を経済目的で使用して、洗脳してしまった罪の重さは計りしれません。
2021年の小規模研究(アトピー性皮膚炎)
私も以前使っていた、皮膚善玉菌を増やす目的で作られた石鹸、ヒューマンフローラ。大手各社も善玉菌をターゲットにした商品を販売していますが、ヒューマンフローラは硬派なイメージです。
他社の製品を使ったことが無いから体感的な比較はできませんが、なかなか良い商品です。一番信用できるなとおもった文言は「傷口にも使ってください。あまり洗い流さないでください。」と書かれていた部分。
これはコンセプトが違うな、と感じました。ヒューマンフローラのコンセプトは皮膚善玉菌の一種である
感じ方は人それぞれですし、100点満点の評価ではないと思いますが、皮膚トラブルで悩んでいる方は参考にしてみてください。ヒューマンフローラが提唱していたコンセプトが2021年の研究で証明されてきています。
アトピー性皮膚炎の方の皮膚にいる黄色ブドウ球菌(Satphyrococcus Aureus)は人間や動物の皮膚にいて一番悪さをする菌の一種だと考えられています。
この研究はアトピー性皮膚炎患者各人の黄色ブドウ球菌(S. aureus)対抗するために、特異的な抗菌活性を有する表皮ブドウ球菌=コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase negative Staphylococci, CNS or CoNS)を培養して、これを用いて製剤化した個別化外用クリーム(自家抗菌性CoNS[自家CoNS-AM+]クリーム)が、黄色ブドウ球菌(S. aureus)のコロニー形成を減じさせる性質を利用しました。
菌類も縄張り争いをしていますから、一定数陣取られると悪さをする黄色ブドウ球菌が集団を作れなくなってくる性質を利用しています。
先程のヒューマンフローラの製品は、エピデルミディス菌と表記してありましたが、これも同じ理論になります。
staphylo;スタフィロ(ブドウの房状の)、epiderm;エピデルム(表皮)に由来して名付けられた本菌は、ブドウの房状に配列する、ヒトや動物の皮膚(表皮)に多く生息するグラム陽性の通性嫌気性菌です。表皮ブドウ球菌という通称の他、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌とも呼ばれています。
ヤクルトのホームページより
ヤクルトのホームページでは「手術の際に体内に入り込むと危険」とあります。
アトピー性皮膚炎、黄色ブドウ球菌自家株を用いた細菌療法で重症度改善
アトピー性皮膚炎(AD)患者の皮膚マイクロバイオーム(微生物叢)に注目した研究が進んでおり、その中でも検出頻度の高い黄色ブドウ球菌(S. aureus)について、繰り返す皮膚炎症状との関連が指摘されている。カリフォルニア大学サンディエゴ校のTeruaki Nakatsuji氏らは、成人11例を対象とした無作為化二重盲検試験において、AD患者の皮膚から培養したS. aureus自家株を用いた細菌療法が、S. aureusのコロニー形成を安全に減少し、疾患重症度を改善する可能性が示されたと報告。
著者は、「より大規模な研究が必要だが、S. aureusを減らすというこの個別化アプローチは、抗菌薬、免疫抑制剤、免疫モジュレーションに代わるAD患者の治療法となりうるだろう」という。
Nakatsuji T, et al. JAMA Dermatol. 2021 Jun 16. [Epub ahead of print]
このような小規模研究は、ヒューマンフローラから送られてくる小冊子にも記載してあります(おそらく2000年代初頭には行われていたと思われる)。
英語で論文が提出されていないと思われるので、このような形で逆輸入されています。他の事でもそうですが、日本人がもともと持っていたコンセプトが海外で認識されて、それを日本人が輸入するという枠組みは多いです。
そういう意味ではSDGsの時代が来ても、問題なくもともとあった日本人の発想が世界に認められるのではないかと私は思います。