医療行為には必ず一定のリスクが伴いますが、その大きさは「発生率」と「重篤度」によって大きく異なります。本ページでは、カイロプラクティック・投薬・手術・精神科医療など主要な医療行為を同じ基準で比較し、科学的根拠に基づいて安全性の位置づけを整理します。誤解されやすい点や、数字が一人歩きしやすい背景も含めてわかりやすく解説します。

目次

医療行為のリスクとは何か

医療行為のリスクは「発生率 × 重篤度」で評価するのが基本です。どれだけ稀でも重篤度が高ければ注意が必要で、逆に発生率が高くても重篤度が低ければ日常的に許容されることもあります。

また、医療行為のリスクを語る際には、次の3つの前提を理解しておくことが重要です。

① 自然発症と医療行為の区別が難しい

脳梗塞や動脈解離などは、施術や治療を受けていなくても自然に発症します。そのため「医療行為が原因」と断定するには医学的な検証が必要です。

② 研究方法の違いで数字が変わる

症例報告・症例集積・コホート研究・システマティックレビューなど、研究デザインによってリスクの数字は大きく変動します。特に症例報告は発生率を正確に示すものではありません。

③ リスクは単体では評価できず“比較”が必要

カイロプラクティック、投薬、手術、精神科医療など、どの医療行為にも一定のリスクがあります。「カイロは危険か?」ではなく「医療全体の中でどの位置にあるのか?」という視点で比較することが重要です。

カイロプラクティックのリスク

カイロプラクティックの頚椎マニピュレーションは「危険」というイメージが先行しがちですが、世界の研究では重篤な事故は極めて稀であることが示されています。ここでは、主要な研究データをもとにリスクの実態を整理します。

頚椎マニピュレーションの発生率(40万〜585万回に1回)

頚椎マニピュレーションによる重篤な有害事象(動脈解離・脳梗塞など)は、40万〜585万回に1回と報告されています。研究によって幅がありますが、いずれも「非常に稀」という結論で一致しています。

②死亡率:およそ1/373万

死亡に至るケースはさらに稀で、約1/373万回と推定されています。これは、日常生活で遭遇する多くのリスクよりも低い数字です。

③危険とされる手技は“回旋+伸展”の組み合わせ

危険性が指摘されるのは、頚椎を大きく反らせながら強く回す「回旋+伸展」の組み合わせです。国際基準(WHOガイドライン)では、この手技は避けるべきとされています。

④ WHO基準教育では危険手技を避ける

WHO基準のカイロプラクターは、頚椎の伸展・強い回旋を避け、代替手技を選択する教育を受けています。安全性を高めるための評価・問診・危険兆候のチェックも体系的に行われます。

⑤ 自然発症との区別が難しいケースが誤解を生む

頚動脈解離や椎骨動脈解離は、施術を受けていなくても自然に発症することがあります。症状が出るタイミングが「たまたま施術後」だった場合、因果関係が誤って結びつけられることがあり、これが“危険”というイメージを強めています。

これらを総合すると、カイロプラクティックの頚椎施術は「ゼロリスクではないが、世界的には極めて稀」という位置づけになります。

投薬(市販薬・処方薬)のリスク

市販薬(風邪薬など)

それでは他の薬はどうか。母数が解らないのですが、風邪薬などの市販薬の副作用による死亡数が5年間で15例発生しているようです。1年間で3名死亡するということになります。市販薬も死亡リスクを持つ医薬品であることは事実です。

タミフルによる死亡率は0.00001%~0.0000005%

インフルエンザ薬の画像
いまはあまり使われないタミフルだが

「タミフル」による死亡リスクはどれくらいの確立か。ネットで検索すると「錯乱して転倒などで死亡する確率」は10万回に1回、200万回に1回とあります。

多剤処方のリスク

5種類以上の薬やサプリメントを併用すると「ポリファーマシー」と呼ばれる状態になり、体内で起こる化学反応や相互作用を正確に予測することは困難になります。精神科医の和田秀樹先生も、多剤併用は高齢者の健康リスクを大きく高め、死亡につながるケースも少なくないと指摘しています。

手術(脊椎手術・整形外科)のリスク

背骨全体では手術後 0.314%が死亡する

手術の様子の画像(イメージ)
背骨への手術イメージ

1000人に3人が死亡

別のコホート研究では27730の背骨への手術の内87人が死亡しているといしています。なんらかの背骨の手術後に起こる深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症(PE)の発生率と危険因子を見つけるための研究です。

2013年の研究です。死亡確率は約0.314%ですから、1000人に3人くらいですか。

2013 Oct 1;38(21):1892-8. doi: 10.1097/BRS.0b013e31829fc3a0. PMID: 23778367.

65歳以上 頚椎手術後9.8%が合併症か死亡

手術道具の画像
手術の道具

65歳以上への頚椎の手術

65歳以上の方への頚椎手術はですと、9.8%の方が術後に何等かの合併症か死亡だそうです(殆どは合併症だと思われる)。

Bernstein DN, Thirukumaran C, Saleh A, Molinari RW, Mesfin A. Complications and Readmission After Cervical Spine Surgery in Elderly Patients: An Analysis of 1786 Patients. World Neurosurg. 2017 Jul;103:859-868.e8. doi: 10.1016/j.wneu.2017.04.109. Epub 2017 Apr 26. PMID: 28456739.

頚椎の手術による死亡リスク

頚椎手術そのものの“死亡率だけ”を示した大規模統計は世界的にもほとんど存在しません。理由は、頚椎手術の件数が少なく、死亡例も極めて稀で統計が成立しにくいためです。

一方で、脊椎手術全体のデータは多く、

  • 背骨の手術全体では 0.314%(約1/318)
  • 腰椎手術では 0.67%(約1/150) などの死亡率が報告されています。

つまり、 頚椎手術は“死亡率が低すぎて統計が作れない”ほど稀な事象であり、 脊椎手術全体では一定の死亡リスクが存在するという位置づけになります。

腰椎の手術では1年内に約0.67%が死亡

背骨への手術の画像(イメージ)
イメージ

腰椎の手術をして1年以内に手術が原因でお亡くなりになる確率は408/61166人で約0.66704%です。ですから1000人に6~7人といったところでしょう。

Salmenkivi J, Sund R, Paavola M, Ruuth I, Malmivaara A. Mortality Caused by Surgery for Degenerative Lumbar Spine. Spine (Phila Pa 1976). 2017 Jul 15;42(14):1080-1087. doi: 10.1097/BRS.0000000000002188. PMID: 28459782.
女性

それじゃあ、腰の手術のほうがカイロプラクティックより死亡リスクは高いってことなの!?どうしてニュースにならないのかしら??

精神科医療のリスク

抗うつ薬の死亡率 0.088~0.247%

5年間での抗うつ薬の調査
アメリカの退役軍人による調査ですと、抗うつ薬で10万人に88人~247人が自殺するという論文がありました。 0.088~0.247%が自殺するということになります。1000人に1人か2人が自殺する。

Valenstein M, Kim HM, Ganoczy D, Eisenberg D, et al. J Clin Psychopharmacol. 2012 Jun;32(3):346-53. doi: 10.1097/JCP.0b013e3182539f11. PMID: 22544011; PMCID: PMC3517726.

退役軍人はPTSDもあるので参考までに。次は日本の精神病院でのデータです。

抗うつ薬の使用が自殺リスクにどのように影響するかについては、薬の種類によって結果が異なることが研究で示されています。BMJ に掲載された大規模コホート研究(Coupland ら, 2015)では、SSRI と三環系抗うつ薬の間に自殺率の有意差は見られませんでしたが、一部の抗うつ薬では自殺や自傷行為のリスクが有意に高いことが報告されています。特にミルタザピン(HR 3.70=相対的に約3.7倍)、ベンラファキシン(HR 1.85)、トラゾドン(HR 1.73)などでリスク上昇が確認されており、治療開始直後や中止直後にリスクが高まる傾向があるとされています。ただし、この研究は観察研究であり、因果関係を断定するものではない点にも注意が必要です。

抗うつ薬の使用と20歳から64歳の人々における自殺および自殺未遂・自傷のリスク:プライマリケアデータベースを用いたコホート研究 – PubMed

ハザード比(HR)は「リスクが何倍になりやすいか」を示す指標で、オッズ比(OR)や実際の発生率(%)とは数学的に直接変換できません。たとえば退役軍人の研究では自殺率が0.088〜0.247%と報告されていますが、これは“実際にどれくらい起きたか”という絶対リスクです。一方、BMJの研究で示されたミルタザピンのHR 3.70は「相対的に約3.7倍起きやすい」という意味であり、絶対リスクが3.7%になるという意味ではありません。

施設に入られていた方にお伺いすると、かなりの頻度で死亡者が出るといわれている精神科の施設。多剤処方なのでしょうが数値的にはどれくらいの死亡率なのか。

日本国の”精神病院”での1か月以内での死亡率4.2%

厚労省のデータで精神科病院に入院した人のうち、1か月以内に死亡したのは約4%。
ただし、1か月以内に退院した人の中では24%が死亡退院だった。

日本では、平成26年6月の国会答弁で、精神科病院に入院した約3万人のうち、1か月以内の死亡退院が1,250例と報告されています。これは「退院者の24%が死亡退院だった」という意味であり、「入院患者の24%が死亡した」という意味ではありません。入院患者全体で見ると、1か月以内の死亡率は約4%となります。

入院後1週間の自殺率は一般人口の100倍以上
退院後1週間も80倍以上
精神科入院は「急性期の極めて高い死亡リスク」を伴う

精神障害における初回入院後の自殺の絶対リスク – PubMed

あくまでも1か月以内の数値ですから長期化すれば実際はもっとあるものだと考えられます。平成26年の別の月では約1割が死亡退院している月もあるそうです。

精神科入院の1カ月は特に自殺などの死亡リスクが高いそうです。どの国でもそうみたいで、これは医療行為と直接関係ない可能性もありますが、大変な数値です。

医療行為のリスクを“同じ基準”で比較する

医療行為重篤な有害事象の発生率出典
カイロプラクティック(頚椎)40万〜585万回に1回世界のシステマティックレビュー
カイロ死亡率約1/373万国際的推計
市販薬(NSAIDs等)年間1万人以上が重篤副作用厚労省 副作用報告
タミフル10万人あたり数例の重篤例厚労省 安全性情報
抗うつ薬(自殺・自傷)HR 1.7〜3.7(相対リスク)BMJ 2015(Coupland)
ポリファーマシー(多剤併用)高齢者で死亡率が有意に上昇臨床研究・専門医指摘
脊椎手術(全体)合併症率 10〜20%整形外科大規模研究
頚椎手術(高齢者)合併症率 18.9%、死亡率 0.314%World Neurosurg 2017
腰椎手術(1年以内死亡)0.67%大規模コホート
精神科入院(1週間以内自殺)一般人口の約100倍Nordentoft 2011
精神科退院後(1週間以内自殺)一般人口の70〜80倍Qin 2005 / Large 2014

医療行為のリスクは「発生率 × 重篤度」で評価する必要があります。カイロプラクティックの頚椎施術は重篤な事故が極めて稀である一方、投薬や手術、精神科医療など他の医療行為にも一定のリスクが存在します。特に精神科入院直後や特定の抗うつ薬では相対的なリスクが高くなることが海外の大規模研究で示されています。これらを比較することで、医療行為全体の中での安全性の位置づけがより明確になります。

▼ 首への施術について詳しく知りたい方へ

カイロプラクティックの頚部(首)への施術が本当に危険なのか、科学的根拠にもとづいて解説したページがあります。

👉 首へのカイロプラクティックは危険か?(科学的な安全性の解説)
https://chirosonomanma.com/dangerous-chiro-neck/

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